夢の中の再会

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夢の中の再会

その夜、私は深い悲しみに包まれながらベッドに横たわった。涙は枯れ果て、心に広がる喪失感に押しつぶされそうになりながらも、ようやく眠りについた。目を閉じると、すぐに意識が朦朧とし、夢の世界へと誘われた。 気がつくと、私は懐かしい場所に立っていた。それは私と兼がよく訪れた公園で、夏の夕暮れが淡いオレンジ色に空を染めていた。 木々の間を抜ける風が心地よく、静かな水面が揺れる小さな池のほとりに、私は一人で立っていた。 突然、背後から優しい声が聞こえてきた。 「美波…」 振り返ると、そこには兼が立っていた。いつもの笑顔を浮かべ、穏やかな表情で私を見つめていた。彼の姿は、まるで現実のように鮮やかで、生き生きとしていた。 「兼…本当に、あなたなの?」 私の声は震え、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。目からは再び涙が溢れそうになったが、兼は静かに首を振り、彼女に近づいてきた。 「美波、ごめんね。約束を守れなかった。」 彼の声には深い後悔が滲んでいた。しかし、その瞳には優しさと温かさが宿っていた。心に触れるように、彼の手が私の頬にそっと触れた。その感触は驚くほどリアルで、彼が確かにそこにいることを感じさせた。 「兼…私も、本当に会いたかった。どうして…どうしてこんなことに…」 私は涙を堪えながら言葉を紡いだ。私の心には、再び溢れんばかりの悲しみが押し寄せてきた。しかし、兼は微笑みを浮かべ、そっと手を握り締めた。 「でも、こうして夢の中で会えたから、僕たちの約束は果たせたよね。」 その言葉に、私は深い安堵を感じた。現実では果たせなかった約束が、夢の中で叶えられたのだと。心に宿っていた悲しみは、少しずつ和らいでいった。 「うん…そうだね。ありがとう、兼。あなたのおかげで、もう涙は流さない。」 私は微笑んだ。私の顔には、悲しみではなく、温かな感謝の表情が浮かんでいた。兼の手をしっかりと握りしめ、その温もりを感じながら、これが私達の『あと一回』であることを理解した。 「僕はいつでも、君のそばにいるよ。だから、前を向いて生きていって。君が幸せでいてくれることが、僕にとって一番の喜びだから。」 兼の言葉は、心に深く響いた。私はその言葉を胸に刻み、これからの人生をどう生きていくべきかを見つめ直す決意を固めた。 「うん…わかった。これからもずっと一緒に、心の中で生き続けてくれるんだね。」 私はその言葉に確信を持ち、優しく頷いた。私の心には、悲しみの代わりに新たな強さと希望が芽生えていた。 夢の中での再会が、私達にとっての最後の「あと一回」となり、これからの未来を見据えることができた。 「ありがとう、兼。これからもずっと一緒だよ。」 そう心の中でつぶやくと、夢の世界が次第に薄れ、現実の朝が訪れた。 目が覚めた。心の中に兼との再会をしっかりと感じていた。 ベッドから起き上がり、窓の外に広がる新しい朝の光を見つめた。清々しい風がカーテンを揺らし、私の髪に触れた。 私は深呼吸をし、心の中で新たな一歩を踏み出す決意を固めた。
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