*祈り*

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「ふふ、やっぱりお前は温かいね」  腹の辺りに擦り寄られる感覚と、幻聴が聞こえる。都合の良い夢でも見ているのだろうか。それにしてはリアリティがありすぎて、智尋は瞳を開けて固まる。そのうち腰に手が回され、抱き着かれると流石に違和感を覚えた。 「は?」  智尋が上げた驚きの声は遠くで聞こえた鐘の音に掻き消される。そうっと視線を下へ動かすと玖藍が腹に顔を埋めて抱き着いていた。  目が点になり思考が停止する。人は頭を撃ち抜かれても生きているものだっただろうか。当たり所が良かったとでもいうのか。いや、でも当たったのは額だ、腹とか胸とかならまだしも額。智尋の脳内は混乱するばかりだった。 「えっ、は、あ」 「ふふふ、言葉になってないよ」  藍の双眸が甘く優しげな眼差しで智尋を見上げる。玖藍の様子は普通すぎた。仮に当たり所が良かったとして、痛みすら感じていないのはどう考えても可笑しい。少しずつ冷静になっていく頭で考えても目の前の現象の理解には至らなかった。 「何を考えているか大体分かるから言わなくて良いよ。悪魔に近づきすぎたから治癒力が高くなっているだけ。でも、まあこのままだと堕ちるから、どのみち死ぬけどね」  玖藍は智尋の腰から手を離して、膝に頭を乗せたまま仰向けになる。ゆっくりとした動作で手を持ち上げると、指先に黒い蝶が止まった。
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