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*邂逅*
十字路の交差点を前に、フウは興奮気味に口を開く。
「洵麗! 人が沢山いる!」
信号が青になると一斉に人々が動き出す様子が面白くて、フウはこの場所に一時間以上立っていた。
都心部にあたる此処は、高層ビルが幾つも建ち並び、人通りの多さは気を抜けば人の波に吞まれそうな程である。
「人など珍しくもないだろう」
洵麗は今にも飛び出していきそうなフウの腕を掴み、通行人の邪魔にならないように自分の方へと引き寄せる。
小柄なフウが人の波に呑まれでもしたら見失うのは確実であろう。それにしても何故わざわざ実体化などしてこのような場所にいるのかというと。
「本当に隠形できないのか?」
「あー、うん、無理」
悪魔が隠形できないという話は耳にしたことはないのだが、フウはできないらしいのだ。魔力が弱い連中ならまだしもフウのような強大な魔力持ちが隠形すらできないというのは信じ難い。
唯一救いなのは、背にあった黒い翼は仕舞えるということだろう。あのようなものを大っぴらに見せては悪魔が此処にいますと宣言しているようなものだ。
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