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「はあ、お前どこまで読んでた」
黙って事の顛末を見守っていた智尋が溜息をついた。玖藍が一体どこまで読んだ上で動いていたのか想像すればするほど、全てが玖藍の手の平の上だったように思える。
「ふふ、秘密」
風で舞った彼岸花の花弁を掴んだ玖藍は笑顔を張り付ける。これは問うだけ無駄だと悟り、智尋は髪をかき上げる。
「なら、イヤリングは初めからあいつに渡す気だったのか」
「そうだよ」
玖藍は手の平に乗った赤の花弁を眺める。フウが本当は玖藍についていく気だということに気づいていた。けれど、昨日悪魔を浄化してフウの核をこの手に収めた時から、洵麗に渡すつもりだったのだ。
これは智尋を差し向けたことに対する仕返しである。フウが手を貸しでもしない限り、あの場に智尋が来るはずないのだ。こちらの計画を邪魔したのなら、あちらの計画を実行してやる義理もないだろう。それに洵麗に預ける方がフウにとっても良いはずだ。
「さあ、オレたちもそろそろ行こうか」
玖藍は石から飛び降りるも器用に彼岸花を避けて着地した。智尋に向かって手を差し出した瞬間、一際強い風が吹いて玖藍の背後で白が舞い上がる。一部だけ咲いていた白い彼岸花の花弁だ。
「ねえ、白い彼岸花の花言葉って知っている?」
「知るわけねぇだろ」
智尋は玖藍を習って彼岸花を避けて地面に足をつける。これから何処へ向かう気なのかはまだ知らない。それをあえて聞く気も毛頭なかった。ただ玖藍が望む道についていくと決めたから、その先が何であろうと関係ない。
それでもこの先に幸があると信じている。
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