*武神と悪魔*

2/3
前へ
/84ページ
次へ
 この童が悪魔であると思うと、実に悪魔らしい傲慢な願いだと洵麗は嘲笑った。そんなもの叶えてやる気などなく、彼は震えながらも刀に手を掛ける。起き上がって悪魔を斬らなければと頭では思っているのに、刀に添えられた手は痙攣するばかりで握ることすら叶わない。 「えっと、ちょっと待って。斬らないで。いや斬られても死なないと思うけど、痛いからやめて」  少年は狼狽しながら洵麗の傍を離れようとする。弱り切っているとはいえ、仮にも神と称される己が悪魔を見逃すなど矜持が許さないと、最後の力を振り絞って、逃げようとする少年に手を伸ばした。  少年の白く細い腕に触れた瞬間、身体の内に温かく透き通るような魔力が駆け巡る。嘗て武神として名を馳せていた頃よりも強大な力が身体中から溢れ出した。何よりも悪魔の魔力とは思えない程、清らかなものであることが洵麗の心をざわつかせる。 「あっ、はは、何か、もう、大丈夫そうだね」  驚きのあまり力を抜いてしまった手から少年の腕が離れていった。残念そうに真紅の瞳を細めた少年に、洵麗は庇護欲を駆り立てられる。  目の前にいる少年は魔王級であろうと察せられる程の強大な魔力を垂れ流しにしていた。それにも関わらず、威圧感も残忍さもない透明な魔力は、その背にある黒い翼さえなければ悪魔とすら分からないだろう。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加