*退魔術師*

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 玖藍に背を向けて、智尋は地上への階段を上っていく。  格子も綺麗なままで、鍵が開いていたということは、誰かが枷どころか牢屋の鍵すらも開けたということ。それでいて、地下牢には一切魔力の痕跡がなかったのだから、悪魔の脱獄を手引きした者は相当な手練れだ。  その条件にも玖藍は該当するが、もし本当に玖藍が手引きをしていたとしたら、彼に手を下せるだろうか。何度想像しても彼を殺すに至らないことに、智尋の苛立ちは増すばかり。 「クソッ、あんな野郎に、情なんてねぇ」  その言葉とは裏腹に脳内に浮かぶのは、玖藍の飄々とした笑みと、彼が共存派を立ち上げたことで袂を別った時に覚えた疎外感だった。  共に悪魔を殲滅して人々を守ると誓ったのは噓だったのかという問いにすら、変わらぬ笑みを張り付けた玖藍の本音が分からない。  けれど、もしあの時、共に共存派にと望まれたのなら付いて行く覚悟すら智尋にはあったのだ。それすらも望まれないというのは、玖藍の中で智尋という存在は取るに足らないものだったのだろう。
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