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「死ぬなよ。置いていくなよ。俺も連れて行けよ、お前が何をしようが、俺は……俺はお前についていくから」
子供じみた台詞しか吐けない自分が情けなくなり、徐々に言葉は弱々しくなっていく。肩を丸めて俯いた。玖藍の顔を見るのがほんの少し怖い。
時が止まったかのように沈黙が生まれる。鳥の囀りと崖の下から聞こえる川のせせらぎが時間は動いているのだという証となっていた。
「えっ、何、愛の告白?」
「ああん?」
予想の斜め上をいく返答に思わずワントーン低い声が出ると同時に拳を握りしめる。人が真剣に伝えようと頑張っているというのに、この期に及んで可笑しな冗談を言われるとは誰が想像できたか。
「いや、だって何か捨てられた恋人みたいな台詞だなって」
「んなわけねぇだろが!」
今日一番の大きな声は山彦のように響き渡った。顔に溜まる熱は怒り故か否かは智尋にしか分からない。玖藍は腹を抱えて笑っていた。
「はははははは、分かっているよ、それくらい。そんなに必死になら、なくても、良いじゃないか」
笑いを耐えながら紡いだ言葉は所々途切れていた。
智尋は舌打ちをして胡坐をかく。玖藍を見遣れば、ようやく笑いが収まったのか呼吸を整えていた。結局上手いこと誤魔化されたような気もするが、玖藍はそういう奴だと諦める。
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