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膝の上に止まった白い蝶、この蝶が白く染まったのを見るのは久方ぶりである。いくら蝶が白さを取り戻したとはいえ、玖藍に今更退魔術師会に戻る資格はない。
名残惜しいが智尋とは此処でお別れである。元は此処で死ぬ予定だったから、共存派の者たちに手柄のために死体の回収を頼んでおいてあるのだ。
「智尋、最後にお前に会えて良かったよ」
隣にいると言われたことをまるで忘れたかのような台詞を吐く。決して忘れているわけではない。けれど、退魔術師ですらなくなってもなお付いてくる気があるのかは確かめないといけないだろう。
「てめぇはこの期に及んで逃げる気かよ」
強い意志を持った漆黒の瞳と視線が混じり合う。確かな言葉を貰わないと玖藍は彼を連れて行く気にはなれない。束縛したいとは微塵も思っていないのだから、当然と言えば当然である。
退魔術師会の今後の出方は不透明だが、下手するとこの先、一生逃亡生活だ。そのような窮屈な暮らしを甘受する覚悟すらないのなら付いてこられる方が困る。
「逃げるよ。もう死ぬ気はないから」
「なら、俺をお前についていく。またどっかで死のうとされたら俺の努力が無駄になる」
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