19人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
玖藍は無人となった牢を見つめる。その藍の瞳は悲しげであった。智尋の、否人前では決して見せることのない表情を顕わにしているのだ。
「フウ、お前は幸せになるべきだ」
今は無き此処の住人に向けて、ただ願った。あの純真無垢な悪魔はこのような薄暗く気味の悪い場所に置いておくものではない。
玖藍はフウの生い立ちを知ってしまったのだ。そして、それは我々人間があの子を虐げる権利などないのだと悟らされた。
「オレのようになったら駄目だよ」
自嘲気味に呟かれた言葉は誰の耳にも届かない。一度目を閉じて、もう一度開いた時にはいつものように顔に笑顔を張り付けていた。
「さて、早く智尋の後を追わなくては、また彼が怒るな」
足早に地上への階段を駆けると、ブーツのカツカツという音が静かな地下に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!