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降参だ、などと口にはしない。有難うとも御免とも言わない。玖藍のプライドが許せないのではない。ただ人を信用するのが恐ろしいのだ。初めからなければ苦しくないが、あるものがなくなる怖さは未知のもので、只々終わりがあるかもしれない関係が怖くて堪らない。
それでもずっと、ずっと一人は寂しかった。心の内に誰一人として入れずに表層で取り繕う度に心が悲鳴を上げていた。けれど、誰も玖藍の叫びなど気づきもしない、彼の存在など他者にとっては所詮その程度だったのだ。
なのに、初めて触れられた、智尋に心の内を。それでいて引くのも早い。土足でズカズカと入り込んでこない引き際の良さが玖藍にとっては嬉しかった。臆病な自分を人に見せる勇気はまだない。けれど、光である彼と一緒なら前へ進める気がする。
「ふふ、なら早く逃げないと」
「どこへ」
「秘密」
遠くから此方に近づいてくる魔力を感知した。二人の間に紅く染まった木の葉が流れた瞬間に、大量の白い蝶が二人を覆い隠す。離れないように智尋の手を握り、魔力が破裂すると同時に白い蝶は光へと霧散して二人の姿は何処かへ消えた。
二人の門出を祝うように遠くで鐘の音が鳴り響く。
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