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「おまたせ、ケンちゃん」
ケンちゃんを両手で持ち上げる。
「いたっ!」
親指の付け根をガブリと噛まれてしまった。悪い子! えい! 目つぶし。
「こらこら、だめでしょ。人を噛んじゃ」
ほーんと、ケンちゃんはすぐ手が出るんだから。
「痛ってぇなこのブスふざけんな!」
「よしよしごめんねケンちゃん、痛かったね」
「むぐ」
怒るケンちゃんを左手と胸で抱きかかえて、右手でわしゃわしゃ撫でる。髪の毛にちょっと血がついちゃったけど、まぁいっか。
あっ。ケンちゃんの目玉が片方、ポロッて落ちちゃった。拾って捨てないと。たてつけの悪い窓を開けると、真夏の熱風と腐乱臭にオエッってなった。
小さく振りかぶって、目玉を投げ捨てる。ヴーヴーとうめき声を上げながら、沢山の人間だったものがやってきて、小さな目玉をめぐって争い始めた。
共食いをしばらく見ていたら、一番体の小さいのがみんなの足の合間を縫って目玉を掴んで食べた。
「うふ。ケンちゃんは美味しい? うん、よかったね」
生産者の気持ちで、その様子を窓辺に頬杖をついてニコニコ見ていたら、後から『早く飯を食わせろ』と催促が聞こえてきた。
やつらは耳がいいから、ケンちゃんの怒鳴り声でこっちに寄ってきてしまうとまずい。音がしないように慎重に窓を閉めて
「はーい、今行くよー」
と返事した。
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