ケンちゃん

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 周囲を警戒しながら小さめのビルに入り、壊れたエスカレーターを歩いて下った。スーパーに入って、シリアルのコーナーを物色する。こんな世紀末でも、栄養バランスよく食べて健康に長生きしたいよね。生野菜は手に入らないから。  一番高い、フルーツがたくさん入ったシリアルを二つ、リュックに詰め込んだ。一ヵ月前まで、一番安いシリアルを買っていたのを思い出すなぁ。働いても働いても全然足りなくて、ケンちゃんはいつもイライラしてたな。  私はずっと、いっぱいお金を稼いでケンちゃんに使ってあげるのが幸せだと思ってた。今ではもうお金なんて、知らないおっさんの描かれた紙屑だ。 「あっ」  シリアル食べるなら牛乳がないと。でももう余裕で腐ってるだろうな。しかたない。ミネラルウォーターと粉末牛乳で代用できるかな? 粉末牛乳って美味しいのかな? 飲んだことないけど。  粉末のココアや紅茶の並ぶ棚の前に移動した。たぶん粉末牛乳もここに置いてあると思うんだけど。あ、あった。ビンに入った粉末牛乳をリュックに詰め込んだだだだだッ 「うぐぇええええ!!」  首が息が苦しい! 思わずリュックを足の上に落としてうぎゃぁ! って声が出そうになったけど、もうそんな酸素は残っていない。うしろから誰かに首を絞められていると気づいたときには、もう体は動いていた。  ポケットからカッターナイフを取り出し、チキチキチキと刃を出す。首を絞める腕は、どんどんキツくなっていて、もう私が気を失うまでの時間との勝負だ。腕、いや腹だな。柔らかい脇腹に刺した。
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