ケンちゃん

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「ギャッ!」  大げさな声を出して首の腕が緩んで、呼吸ができるようになった。げほげほと咳き込んで、ぜーはーぜーはーと息をする。女が立ち上がろうとしている。息を整える暇はない、殺す。  カッターナイフで両目を一閃した。怯んだところで、首を思い切り掻き切った。赤い鮮血が飛び散って、綺麗だなと思った。 「か……して……よ」  地面に倒れた女のひび割れた唇を、冷ややかな目で見下ろした。 「返してよ、私の慶人(けいと)」 「は? 私のケンちゃんだし」  バーカ。もうお前はケンちゃんの彼女じゃないし、私はもう太客じゃないの。世界がぶっ壊れて、私とケンちゃんを結んでいた『金』が無価値になって、力だけが意味を持つ世界になったんだから。ケンちゃんはもう、私のもの。  はあ、疲れたな。家に帰ろう。少し、めまいがする。  何だか足が重いなと思ったら、女につかまれていた。しつこいな。つかまれてない方の足で女の頭を踏みつけると、砂糖でできた林檎みたいにぐしゃりと潰れて、床に血だまりの赤が広がっていった。さようなら。
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