ー優大ー想定外

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ー優大ー想定外

仕事さえ入らなければ。タイミングがあまりにも悪すぎる。 真希ちゃん、大丈夫かな。 ゆっくり話を聞いてあげたかった。多分遠慮して連絡して来ないんだ。後でメッセージ送ろう。 ドラマ撮影の休憩中、彼女の顔が浮かんだ。 笑顔じゃなくて泣き顔だった。 急に仕事が入らなければよかったのに。 「ゆーだいさん! どうしたんですか」 話しかけてくるなと言いたいが、彼女は僕が主演するドラマのヒロイン役だ。君島彩香(きみしまさやか)は有名な女優でアイドルもやってる。 割と演技派らしく、彼女の出演したドラマは視聴率が良いらしい。 彩香ちゃんと共演するのは初めて。 まあ僕、ドラマに出るの久しぶりだからね。 バンド以外の活動も止めてたから。 「あたし、優大さんが落ち込んでると心配になっちゃうな」 「お気遣いありがとう。別に大丈夫だよ」 営業スマイルでかわす。この子は前にメッセージアプリで仲良くしてくださいと送ってきた子。 『悪いけど 僕 彼女居るから無理』 そう返事したが 『え? 彼女ですか? 負けないですよ』 なんて送るような人だ。 仕事じゃなかったら、関わりたくない。 それなのに、恋人役だ。 正直、最悪な気分。 僕が演じる主人公役、アオイはヒロインのミサキに告白されるも何度も断る。 だけど、ミサキの熱意に負け付き合うことに。 しかし、ミサキにはリョウタという幼なじみがおり、リョウタが略奪しようとする。 三角関係になるっていう大人の恋愛ストーリーだ。 今やってるシーンは、アオイがミサキに壁ドンして ドキドキさせるという所。 「あたしには、アオイしか居ないの! だから·····」 彼女を壁際に追い込む。 「僕だって、ミサキしか居ないんだ。だから僕以外は見るな」 真剣に見つめる。ミサキのセリフのはずが、彼女は見つめ返すだけ。 「……っとああ、ごめんなさい」 NG。台詞、飛んだのかな。 ちゃんとやってほしいな。 こういうシーンはあまり何度もやりたくない。 仕事でスイッチが入ってても、多少の恥ずかしさがある。 「優大さんがあまりにもかっこよすぎたから、あたし台詞飛んじゃいました。ごめんなさい」 プロでしょう。真面目にやってくれないと困るんだけど。 あと、そういう小細工は効かないから止めて。 そんなんじゃ先が思いやられる。気が重い。 ベッドシーンだってあるというのに。 やりたくなくなってきた。仕事だから我慢するけど。 彼女は何度かNGを出してる。 その度に優大さんがかっこいいから間違えた、とか台詞が飛んだとか言ってくる。 可愛く言ってるつもり? 頭にくるんだけど。 リョウタ役の男が僕に耳打ちする。 「優大さん、彩香ちゃんに好かれてますね。羨ましい」 何が? 僕に恋人が居るのを知ってて狙ってくるんだぞ? 普通なら身を引くでしょ。それが出来ないなんてどうかしてる。 譲れるならくれてやりたいくらいだよ。 あからさまな態度を取ってくるのもイライラする。 「優大さん。本当にごめんなさい。あたし、もっと頑張りますから」 本当に頑張ってるつもりかな。 彩香ちゃんとどうにかなる気なんて一切ないからね。 はっきり言わないと分からない? 仕事としてやってる訳だからお遊びじゃないんだよ。 頼むからいい加減にやらないで。 女優としてのプライドないのかな。
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