ー晴ー変わらない気持ち

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ー晴ー変わらない気持ち

忍に呼ばれているのに、今日は何だか気分が乗らない。話があるらしいが断ろうか迷っていた。 でも、やることは特にないし行った方がいいよな。 話ってなんだろう?心当たりがない。 あまり詳細を聞いていないので、内容が全く予想出来ずにいた。 忍の家に着くと、何故だか分からないが帰りたい気持ちになった。元々気乗りしなかった訳だし。 だからといって戻るなんて、しない。 部屋にある焦げ茶色のソファーに座る。決まって左側に座る。じゃないと落ち着かなくてね。 今日はそうでなくても気分がままならない。 「忍。話って?」 「いや、実は相談というか」 珍しいな。忍が相談を持ちかけるなんて。 「実は、晴にストーカーしてた犯人知ってるんだよね」 「ああ、俺も知ってる」 彼は意外そうな顔をした。真希だって知らないわけないだろ、この俺なんだから。 「いや、知ってたのか。で、さ……」 話しづらい内容なのか言葉を選んでるように見えた。 「真希さんがストーカーしてる時に声をかけたんだ。そうしたら、止める代わりにオレと関係を持ちたいって迫ってきて」 ふーん、真希がそんな風にね。 「真希が迫ってきてどうした訳」 「凄く怖くて、断りきれなかったんだよ」 あ、そうなんだ。関係持ったんだ。 こいつ、嘘ついてるな。 話を作ってるんだろう。 真希はそんな関係を迫るような人じゃない。 俺が彼女をどれだけ知ってると思ってるんだ? 「嘘をつくのは止めてくれないか」 何のために嘘を言ってるのか、分からない。 俺を不機嫌にしたいだけか? 「嘘なんて言ってない。真希さんが本当に……」 「忍。何が目的?」 忍が感じ悪く笑う。こんな笑い方今まで見たことないからびっくりした。 「真希さんと関係持ってるのは本当」 だからなんだよ。自分が優位に立ったつもりか 「お前の大好きな真希さんはオレと寝たんだよ。お前の知らない間にね」 「で? お前とヤッたからなんなの」 「何その反応、もっと悔しがれよ。すげぇ嫌がってたけど、それすらも良かったな」 それを聞いた瞬間、俺は忍を思いきりぶん殴った。 こいつ、真希を傷つけやがったんだな。 ぶっ殺さないと気が済まない。 人を平気で傷つけるようなクズ、絶対に許さない。 長い間、苦楽を共にしてきたメンバーだとしても。 真希が苦しんだ分、それ以上にして返してやる。 人の痛みを理解できない奴がいつだって、俺の大切な存在を傷つけるんだ。それも最低なやり方で。 俺は誰に何されようが構わない。自分のしたことが間違いだというなら、罰なんていくらでも受ける覚悟がある。 でも、真希は。彼女だけは自分を犠牲にしてでも幸せになってもらいたい。 その幸せのために、他の全てがどうなったっていい。 怖いものなんて何も無いんだ。愛してる。その事実だけが俺を生かす理由だ。 「まさか殴られるとはな。痛ぇな」 この期に及んでまだ笑ってられる余裕があるんだな、忍。 こいつ、いかれてる。罪悪感の欠けらも無いのか。 今まで一緒にやってきたのに、知らなかった。 良い奴だと思ってたんだがな。全く知らない忍を初めて見た。 「何で手ぇ出したんだ。言ってみろ!!」 ただじゃおかない。こいつの人生めちゃくちゃにしてやる。傷つけたんだから後悔すればいい。 「お前が大嫌いだからだよ。女にうつつ抜かしやがって。バンドが大事なんじゃないのか」 そんな風に言われる筋合いなんてない。 バンドよりも真希の方が大事。 なんならVanillaを止めたって構わない。 別に1人でも歌えるし、問題ないから。 「そんなに嫌いならVanillaのボーカル、止めてやろうか。それで忍の気がすむのなら、別に抜けたっていい」 「本当に止められるのかよ。簡単に言うなって」 「容易いことだよ、そんなの。その代わり真希には2度と近づくな。もし破ったら、Vanillaをぶっ潰してやる」 「オレは晴に止めてほしいとは思ってない。ただ、バンドを1番に考えてくれたら……」 「はっ。1番大切にしてるものがバンドな訳ないだろ。真希の幸せのために俺が存在する。ただそれだけ」 何で晴という存在にまでなって生きてるんだと思う。 全ては真希のためだから。 晴のままでも、藍来だったとしても。 愛する気持ちは同じだ。 ただ生きてるか、死んだ存在かの違いだ。 やっぱり俺には彼女だけだ、傍で護りたい。 たまらなく会いたくなった。 諦めるなんて、やっぱり出来ない。 真希には俺が居なきゃ、駄目なんだ。
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