ー優大ー冷たい心に刺さる熱

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ー優大ー冷たい心に刺さる熱

僕、どうかしてる。あんな別れ方したのに真希ちゃんが頭から離れないんだ。 あの時、やっぱり戻ればよかった。 ちゃんと話をしていれば、何か変わっていたかもしれない。 今、ベッドシーンを撮っている。 真希ちゃんは何で忍と寝たんだろうか。 妙に引っかかる。 よくよく考えてみたら彼女は自分から誘うような人じゃない。 それに、何で相手が忍なんだ? 演技に集中しなければならないのに、気になってしょうがない。 「優大さん。いい加減にあたしのこと好きになってください」 耳元で囁かれた。演技中なのに、よくそんなこと出来るよな。 まあ僕も言えた調子じゃないけどね。 仕事の時に、うつつ抜かしてる場合じゃない。 今の僕は優大じゃなくアオイだ。 アオイの気持ちにならなければ。 今いるのは、彩香ちゃんじゃなくミサキなんだから。 ミサキを愛する、アオイ。 僕と違って情熱的な男。 ある意味羨ましい。だって僕はアオイみたいに人をここまで愛せないから。 もし僕が冷めた男じゃなかったら…… もしかしたら、何か勘違いをしているのかもしれない? 理由をちゃんと聞けば良かった。 他の男性としていたのは、彼女から誘ったんじゃないのかも。 だとしたら、忍から? 僕と仲が悪くなったのをいい事に迫ったんじゃないのか。 真希ちゃん、そういや言ってたな。 ーー好きで抱かれてる訳じゃないのーー あの言葉が本当だとすれば、真希ちゃんの気持ちは…… あの時、感情に任せて帰るんじゃなかった。 怖かったんだ。失い続けるのが。 大切にしてても簡単になくなるから。 でも真希ちゃんなら。 僕がしてる仮面を剥がしたって大丈夫かもしれない。 冷たい人間を止めて、求めたっていい? あの笑顔の傍に居たい。 自分自身にびっくりする。だって今まで女性に対して、そこまで本気になったりしなかったから。 冷たくしたことはっきり謝ろう。 それでちゃんと話し合って、もう1度好きになってもらう。 そんな都合よくはいかないかもしれない。 ゆっくり時間をかけよう。 だからまだ好きでいさせて。 「優大さん。何で付き合ってくれないんですか」  撮影が終わり帰ろうとすると、彩香ちゃんに引き止められた。 「はっ。何でって好きじゃないから」 半分馬鹿にしたように言い返すと、彼女は笑みを浮かべていた。 はたから見たら、お人形みたいに可愛いらしいのに、やってることはしつこい。 「実はぁ、あたしが仕組んだんですよ。スキャンダルの件。絡まれたのも、あたしがそう頼んだからですよぉ」 仕組んだ? まさか、あの時わざと絡まれてた? だとしたら性格が悪いとかの話じゃない。 人の親切を逆手にとるなんて最低だ。 「やり口が最低だね。まあ、別に本当に交際してるんじゃないんだから、痛くも痒くもないけど」 「逃げ道塞いだのにな。あたしのものになるしかないでしょう。彼女さんだってショック受けてましたよね」 だから何? 僕は簡単に他の女性のものになんかならないよ。 彩香ちゃんなんて、どうだっていい。 他の人なんて、みんな汚く思えてくる。 僕は彩香ちゃんに近づいて睨み、ワザときつく言った。 「僕の大切なものを壊すなら、あんたは全てを失うからね。次はないと思いな」 彩香ちゃん、本気でびびってた。 その後、スキャンダルの報道が事実とは異なると説明。 僕にはプライベートでお付き合いしている方が居る、そう報道陣に話した。 事務所に最初、スキャンダルについてはなるべく触れないようにと言われてたんだけど我慢ならなくて。 もっと早く否定していればよかった。 プライベートで付き合ってる人が居ると話すと場合によってはマイナスになるから、ファンが離れる原因にもなるから言い出せずにいた。 でも、大切な人が居る。 それが事実だから。 仮に忍と浮気してたとしても、全力で止める。 大切にしたい存在が居てくれる。それって幸せだと思う。 スキャンダルのせいで辛い思いをさせてしまった。 だから、これからはちゃんと護りたい。 真希ちゃんに理由があるにせよ、話し合いたい。 自分をさらけ出すのは簡単にはいかない。 やっぱり怖い。僕は性格が悪いから嫌われてしまうかもしれない。 それでも、誠意はちゃんと見せたい。 もう1度、会いに行こう。
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