ー藍来ー昔話

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ー藍来ー昔話

思い出す。真希と出会ったあの時を。 そう、2年前。 秋が深まり段々と寒くなる頃。 落ち葉が道を彩っていて綺麗なのを覚えてる。 あの時、俺も彼女もどん底だった。 真希は死のうとしてたな。 しつこい既婚者の男のせいで。 誰も味方がいなかったんだ。 友達にも相談できずに、1人で悩んでたんだよな。 優しいからなんでも抱え込む。それは今も変わらないんだけどね。 死にたい、全て終わりにしたい。 彼女の心の声、悲鳴をあげていた。 あの、全てに絶望した表情。 もう命など要らないと諦めたあの悲しい顔。 泣いてるのに、ひどく綺麗だった。 これ以上、美しいものなんて存在しないと思った。 同時に救いたいって胸がズキズキ痛んだ。 簡単に死んでほしくなくて声をかけたんだ。俺は幽霊だから聞こえるはずもないのに。 真希は歩道橋から身を乗り出していたけど、俺の言葉を聞いて驚いたからか乗り出すのを止めて、辺りを見渡していた。 まあ、居るはずないよな。死んでるんだからさ。 幽霊ってやつだから姿が見えない。 今思えば一目惚れだった。あの顔は未だに忘れられない。普通に生きてたらあんな表情は出来ないだろう。 「死なないで」 そう言わずにはいられなかったんだ。 俺は簡単に死んでしまった人間だから。 同じ目にあってほしくないって。 死ぬとその場面が永遠に自分の中に残る。 それが心に強く爪痕を残すかのように、ずっと。 凄く怖くて死ななきゃよかったって思う。 後悔したって遅いんだよ。あの時、生きていれば変われたかもしれないのに。 真希には、辛い思いをして欲しくなかったから助けたんだ。   死ぬって楽になれるんだって考えてしまってた。 だから、自分から投げ出したんだ。何もかもを。 ーー俺は自分で、命を絶ったーー 仕事が忙しくなりだした時、毎朝起きるのが辛く、なかなか起きられなくてね。 自分がだらしないからだと最初はそう考えてた。 なかなか仕事に集中できなくて、作詞や作曲が思いのほか進まない。 それもやる気がないせいだって。 でも、違ったんだ。 メンバーと飲みに行くのもだるくなって、誘いを何度も断って家に居るのが多くなる。 もしあの時に誰かに相談していたら。 誰にも相談できず、1人でひきこもりながらずっと考えてたんだ。 何でちゃんとできないんだろうって。 自分はいい加減な人間だって責めてしまう。 焦れば焦るほど仕事が出来なくなる。 本当におかしいと思う頃には、遅かった。 身体が毎日重くて、何かあるんじゃないかと内科に行ったら身体はどこも悪くなくて。 他の病院の紹介状を書いてもらった。 そこには正直、行きたくなかったけど頑張って行った。 その病院には3ヶ月近く通うことに。 多分、今思えば。 鬱だったんだと思う。 医者はそこまで言わなかったけれど、処方されてる薬の効果を調べると、抑鬱に効くものだった。 毎日、息をするだけでも精一杯。 辛くて普通でいるのですらも、ままならなくなって。 メンバーにも様子がおかしいって言われて、心配された。 それすらも嫌に感じた。うっとうしいなとしか思わない。 休むように快先輩から言われて、しばらくバンドは活動休止状態に。 自分のせいだって思わずにはいられなかったよ。 鬱になったのは自分が一生懸命頑張らなかったからだって。
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