ー真希ー選んだのは

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ー真希ー選んだのは

藍来が亡くなった理由を知れて良かった。 一生懸命生きてたんだ。 同時に彼がもうこの世に居ない事実を受け止めなければいけなくて。 でも、今目の前に居るハル君はどうしたって藍来に見えてならない。 彼が私を見つめる。その瞳に情熱を感じて、ドキドキせずにはいられない。 目を合わせてるのが恥ずかしくなった。慌てて目をそらすと、インターホンが鳴った。 玄関のドアを開けると優大君が泣きそうな顔をしてるように見えて、胸がちくりとした。 何しに来たんだろう。分からない。 「今更来てごめんね。どうしても話したいんだ」 話なんてしてどうなるの。 私はもう、優大君なんて知らない。 他の人を選んだんでしょ。 本当になんで来たの。 「帰ってくれないか」 ハル君が、優大君に冷たく言い放ったけど帰りたくないみたい。 「何で、真希ちゃんと居るのか分かんないけど、話さなきゃならないんだ。邪魔しないでよ」 私としても気まずい。 帰ってほしいけど、変に冷たくできない。 優大君がお互いに誤解してるから、少しづつ理解し合いたいって言ってる。 仕方なく家に入れることにした。 一体何がすれ違っているのか、分かったところでどうにかなるの。 3人で居るとなかなか気まずいな。ハル君、さっきから優大君を嫌そうに見てるし。 とりあえずアールグレイを差し出すと、優大君は飲まずに話し始めた。 「スキャンダルになったの、あれは嘘なんだ。彩香ちゃんが絡まれてるのを助けて、家まで送っただけ。付き合ってない」 そうだったんだ。知らなかった。 報道があってからすぐにメッセージアプリをブロックしてたし、ニュースはたまにしかスマホで見てない。 「それに、冷たくしてごめん。僕ね、真希ちゃんが簡単に浮気するような人じゃないって思ったんだ。忍と何かあったの? ねえ、知りたい」 ハル君が心配してくれたのか、話さなくていいと言ってくれた。 でも、知ってもらわないと。 思い出すだけで吐きそうだったけど、ストーカーが見つかって忍さんに無理やりされたことを話した。 「知らなかった。本当にごめん。スキャンダルにならなければ、真希ちゃんが苦しまないで済んだのに」 ハル君が手を握ってくれるから落ち着いて話せた。 優大君が暗い顔をしてる。初めてみる表情に、胸が痛い。 優大君は悪くない。だから自分を責めないでほしい。 もっとお互いに事実を早く知っていたら、こじれずに仲直りしてたかもしれない。 そうだ。あの話、知らないよね。 さっきハル君から聞いた内容を優大君にも話した。 何となく、勘づいていたみたいであまり驚いてない。 「あっくんって呼んでいいか分かんないや。ややこしいよ、まったく」 和んだみたいで少し笑ってくれた。 「俺はどちらでも構わないですよ。両方の記憶があるから」 ハル君は藍来を宿してる。 やっぱり凄く不思議、こんなことって。 優大君、驚かないんだ。私はびっくりしたけどな。 「真希ちゃんこれから僕たち、どうする」 「う……ん。優大君とは友達に戻りたいかなって」 「嫌だよ。諦めるなんて出来ない。お互いに誤解してただけだし。それに、僕を冷たい人間だと思ってるよね」 友達としてじゃなく、恋人としてやり直すべき? 「もし、僕が冷たい奴じゃなかったら。惚れ直すかもよ」 「ふっ。止めといた方がいいかと。大火傷しますから」 そうやって笑うのは藍来とハル君の癖だ。 その癖、好きなんだよね。 ああ、私。そうだ、好きなんだ。
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