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俺の両親はもう亡くなっていて、兄さんしか居ない。
性格が似ておらず、落ち着いてる。
ミュージシャンで好き勝手やってる自分と違って、会社員だ。役職についていて仕事が楽しいと言ってた。部下を育てるので毎日忙しいって。
時間を作ってもらい、真希と結婚すると伝えた。
兄さんが泣くものだから焦ったよね。
「まさか、晴にいい人居たなんて。羨ましい。兄さんが真希ちゃんと結婚したいくらいだ」
馬鹿言うんじゃない。いくら兄さんでも冗談が過ぎるよ。
真希が楽しそうに笑ってくれたから、いいけどね。
挨拶は済んだが、まだやることがある。
結婚指輪を選ばないと。真希がピンクダイヤモンドに憧れているのを知ってるから、それにしようと考えてる。
指輪を選ぶ段階で緊張しまくりで、自分で言うのもなんだけど大丈夫かなって。
いや、真希が傍に居るんだから大丈夫だ。
店の名前は、lacrima pure(ラクリマ ピュア)
ここはピンクダイヤモンドを専門的に扱ってるらしい。
店に入ると真面目そうな雰囲気な男性の店員が対応してくれた。
「この度はおめでとうございます。一生もののピンクダイヤ、ご案内致しますね」
ピンクダイヤモンドには大きさやクラリティだけでなく、色味も重要だと真希が教えてくれた。
濃さでも幅があるがパープリッシュピンク、オレンジッシュピンクと色彩が広くあるらしい。
俺は濃すぎない優しいピンクが似合うなって。そう話すと彼女もその色味が良いと言っていた。
店員は丁寧に接客してくれる。似合うピンクを見つけてもらい、候補をいくつか出たのでよく見せてもらった。
あ、と2人で声を出した。絶対にこれ。
そう、同時に同じダイヤを選んだ。
甘くて上品で優しいピンクが煌めいてる。
桜が乱れ咲いてるような色味。
これしかない。
俺のリングにはオレンジッシュピンクのダイヤを彼女が候補の中から決めてくれた。
この店にして本当に良かった。店員も親切だし、やたら高いのを勧めたりせずその人に合う色を探してくれたから。
真希の幸せそうな顔を見て、俺も笑顔が零れる。
ウェディングドレスはどんなのがいいとか楽しく話しながら家に向かった。
そういや。まだ、話していなかったな。
晴ではなく、藍来として。
俺はお別れしなければならない。
もうすぐ魂が消滅する。成仏はもう出来ない。
晴に取り憑いた時から気づいてた。もう時間がない、消えかかってるって。
だから、消滅する前に真希に伝えたい。
絶対幸せになってほしい。永遠に愛してると。
晴、悪いけど少しだけ時間をくれないかと頼んだ。
彼も気づいていたようで了承してくれた。
ちょうど、家で1番景色が良く見える所。満月だ。
真希とあの時見た月によく似た美しさ。
ぼんやりとしてる、今の俺の存在みたいに。
もの悲しくなるけど。
もう全て、この月の形みたいに丸く収まるんだな。
そう。これから俺は、この満月みたいに静かに見守るしか出来ない。
泣いたら駄目だ。いつも真希が笑うみたいに、最後は……
真希に大事な話があるときりだした。
「何?ハル君改まって……」
晴じゃないよ。俺だよと言わなくても、もう分かるよね。
「真希、幸せかい? 」
「藍来!うん、すっごい幸せだよ! 」
「よかった。俺も凄く幸せ。死んでからこんな、こんな幸せ……」
駄目だ。泣くつもりなんてないのに。涙が次から次へと溢れてしまう。
今までで1番の笑顔で別れるつもりだったのに。
分かってたし、覚悟してた。
でも、気持ちが止められなくて。
永遠にお別れなんて嫌だ。
「ごめんな、ごめん。真希」
優しく抱きしめてくれた。凄くあたたかい。
出会えて本当によかった。
ずっと居られるなら、どんなに幸せか。
でも、出来ない。俺は死んでいるんだから。
「ずっと居てくれるよね、藍来」
「ううん。それは出来ない」
真希が泣いてしまった。泣かせるつもりなかったんだけどな。
「お願いだから、ずっと一緒に……」
「大丈夫だよ、晴が傍に居る」
無理にでも微笑む、でも上手く笑えない。
「消滅する前に、神様に捧げるよ。真希の永遠の幸せを願って。俺の魂をね」
「そんなこと、しなくていいよ。私はもう沢山の幸せもらってるんだから。藍来に恩返ししたいの」
「いいんだ。その気持ちを、晴に注いでやって」
ああ、消えてしまう。まだここに居たいのに。
「愛してる、真希。永遠に、ずっと」
さよならは言わないよ。
いつかまたはないけれど、永遠を誓うから。
こんなに愛せて、本当に幸せだ。
最後に、彼女のために魂を捧げる。
俺は真希にとって、天使のように柔らかな存在だった?
分からない。でも俺は真希にとっての永遠になりたい。
ありがとう、最後にもう1度だけ言うね。
心の底から愛してる。
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