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そのガラス玉に私の顔が映っていた。歯を食いしばり、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの、痩せ細った老人の顔だ。
神様、頼む。今だけ、今一度、私を動けるようにして欲しい。少しの間でいい、あと一回だけ、私の身体を昔の若さが滾る身体に戻してくれ。お願いだ――。
私は目をぎゅっと瞑って願った。するとどうだろう。全身が燃えるような熱を持ち、力が漲るのを感じた。
ふと目を開き、ガラス玉を覗き込んだなら、そこには逞しい青年の顔が映っていた。これは若い頃の私だ。勇猛果敢に敵兵共をなぎ倒していたあの頃の私だ――!
ハッと顔を上げると小屋にも火の手が回り始めていた。奇跡に感動している場合ではない。最早一刻の猶予も許されないのだ。私は丸太の様に太い腕で妻をヒョイと持ち上げ、割れた窓から外へ飛び出した。
空が紅く燃えている。数十機の戦闘機が編隊を組んで飛び交っている。無数の焼夷弾が雨の様に降り注いでいる。
硝煙の臭い、空気を震わす轟音、命を燃やすこの感覚。懐かしい。今、私は何だって出来るのだ。投石で戦闘機を撃墜することも、望めば空さえも飛べる気がする。だが、だが今はとにかく走るのだ。この力は妻を救うために神が与えてくれた一瞬の力なのだ。
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