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「フガッフガッフガッフガッ!」
こういう慌てん坊なとこもクロにそっくりだな。見た目はもちろんのことだが、中身まで似ているとはな。
クロは地面の匂いをかぎながら前進する。時々、電信柱の前に止まっては電柱の匂いをかぎ、バレリーナ並みに開脚したとおもったら勢いよくマーキングをする。
「お前もずっと我慢しとったんか? すまんすまん」
クロはスッキリしたのか、再び歩きだす。と思ったら今度は小さな両耳をピンと真っ直ぐ立て、正面を向きながら立ち止まる。よく見ると、前方の畑と畑の間の車一台ほどの幅しかない道から、誰かがゆっくりとこちらに歩いてくる。
「あら、かず君にクロちゃん、おはよう。今日も早いわねえ」
ご近所の鈴村茜こと茜ちゃんだ。わしと小中学校の同級生でもある古くからの友人だ。彼女は昔からわしのことをかず君と呼ぶ。そして彼女は大のクロ好きでもある。
「おはよう、茜ちゃん。おい、クロ。挨拶せんか!」
「クゥゥゥゥゥゥン」
「ははは! かず君、犬に挨拶は無理やて」
「そうだったそうだった。こっちのクロは挨拶せえへんかったな」
「そうそう。『おはよう』って聴こえる声で鳴いとったのは前のクロちゃんやけんね」
そう言うと茜ちゃんは手に持っていた紫色の小さな手提げ袋の中から透明なタッパーを取り出す。パカッと蓋を開け、中からいい匂いのする干し芋を一つ取り出すと、「ほれ、クロちゃん。昨日の余りものやけど、食べんけ」と言い、クロの口元に運ぶ。
バグッ!
少し匂いを嗅いだと思いきや、アリゲーター並の早さと力強さで干し芋を口に入れるクロ。その動作に茜ちゃんの小さな身体は少しビクンと動いた。
「あー、びっくりした! 指まで持っていかれるかと思った。クロちゃん、いつも怖いんよねー」
「すまんな、茜ちゃん。コラ! クロ! もう少し優しくくわえんか!」
「ええんよ、ええんよ。クロちゃん、干し芋大好きやけんね」
クロは悪びれることなく、口からハシュハシュと音をたてながら干し芋を食べている。
「いつもすまんねえ。わざわざクロのために持ってきてくれて」
「ええんよ、ええんよ。昨日、孫たちが遊びにきたときに作ったおやつやけん。沢山作ったけん、余ってしまって処理に困ってたんよ」
茜ちゃんはそういうが、ほぼ毎日こうして散歩で出会うときはいつもこうして干し芋をクロにあげている。茜ちゃんは正直に言わないが恐らく、クロのためにいつも作ってくれているんだと思う。
「前のクロちゃんも干し芋好きやったね。ようガツガツ食べよったね」
「あはははは。そうそう、懐かしいね……」
「あら! そういえば、かず君、明日じゃなかった!? クロちゃんの命日……」
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