キスして抱きしめて

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 会いたいと言ってきたのは武尊(たける)の方なのに、行き先が決まらないまま、もう数十分も車を走らせている。 「じゃあ映画観ようか」  痺れを切らした真琴(まこと)が提案した。 「うん、そうしよう。真琴観たいのある?」 「うーん……面白そうなのやってたっけ」  調べてみようと、バッグからスマホを取り出した。 「まだ腹は減ってない?」 「あー、ちょっと減ったかも」 「じゃあ先に腹ごしらえしようか。真琴何食べたい?」 「え? うーん……ちょっと待ってね」  映画からランチに変更して検索しなおす。 「和洋中どれがいい?」 「俺は何でもいいよ」  “何でもいい”が一番良くない、と真琴は思う。  互いに好きなものが食べれるようにと、ファミレスやショッピングモールのフードコートに行けば、結局またそこで武尊が決めかねるのは目に見えている。 「じゃあエスニックなんてどう?」 「いいねえ。近くにあるの?」 「うん」 「じゃあそこにしよう」  “何でもいい”と言っておきながら、それが例えばパンケーキだった場合、“昼飯にパンケーキはなしだろ”などとケチをつける男は案外多いかもしれない。けれども武尊のいいところは、真琴が何を選んだとしてもいやな顔一つ見せないところだ。それに、いくら迷っても決断を急かさず忍耐強く待ってくれる。  “優柔不断男”は優しくて包容力があるともいえそうだ。
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