キスして抱きしめて

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「ナシゴレンもトムヤムクンも旨かった! 真琴が頼んだ幻のジャワカレーも旨かったよな。ガパオライスとミーゴレンも食べてみたかったけど」  デザートのナタデココを噛みしめながら武尊が笑顔を向ける。 「ガパオライス作ったことなかったっけ?」  言ってから、真琴は口を滑らせたことに気付いた。 「誰に作ったんだよ」 「え? あれ? 友達が遊びに来た時だっけ」 「わざわざエスニック料理を?」 「う、うん……」  武尊は少々女々しいところがある。 「映画、何観ようか」  真琴はスマホを操作しながら話をすり替えた。 「あ、これ面白そうだよ。これにしようよ!」  スマホ画面を見せながら伝えると、武尊は笑顔で頷いた。  店を出て少し車を走らせたところにある映画館に到着してチケットの購入を終えると、館内に設置されているUFOキャッチャーが目に入った。 「あ、前にもここ来たよね」  ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、武尊の強張った表情を目にした真琴は、またまたやらかしてしまったことに気付いた。 「俺はここ初めてだけど」 「……あ、ごめん」  さすがに二度目は言い逃れできず、真琴は素直に謝り、一緒に来たのはかつての恋人とだったことを思い出した。  不機嫌な武尊と座ったカップルシートには、不穏な空気が漂った。機嫌を直してもらおうと選んだコメディー映画だったが、武尊は硬い表情で腕組みをしたまま、終始くすりとも笑わなかった。  こうなると、機嫌が直るまで相当時間がかかるだろう。   「武尊、機嫌直してよ」 「別に怒ってねえよ」  視線も歩幅も合わせようとせず、足早に駐車場へ向かう武尊は見え透いた嘘をつく。  大切なのは今で、恋人の過去の恋愛相手のことなどどうでもいいと真琴は思うが、武尊はそうではなかった。真琴の過去の恋愛や恋人が連想されるようなことがあると、いちいち気にするのだ。 「武尊、待って!」  真琴は小走で駆け寄り、エレベーターに乗り込もうとする武尊の腕を掴むと、そのまま強引に非常階段に誘導した。  そこでようやく視線を合わせた武尊は、小さくため息を漏らした。その表情から、怒っているわけではないことがわかった。ただ、いじけているだけだ。  真琴はゆっくりと近付くと、両手を武尊の首に回し、それから少し背伸びをして唇を寄せた。 「もう一回」  唇を離した真琴を見つめ、武尊が甘えるようにせがむ。  ようやく機嫌を直してくれたようだ。  真琴が焦らすように鼻先にキスすると、武尊は恨めしそうな目を向けた。それはまるで、おやつがもらえなかった子犬のようで、真琴は堪らず両手で武尊の頬を引き寄せ唇を押し付けた。それから暫く抱き合い、手を繋いで車に向かった。
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