キスして抱きしめて

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「真琴」 「ん?」 「別れよう」 「……え?」  聞き違えたと思った真琴が聞き返した。 「今までありがとう。真琴には本当に感謝してる。俺みたいな頼りない男と二年近くも一緒にいてくれて」 「えぇっ、何? 恐い恐い!! そういう冗談似合わないよ」 「冗談じゃない」  不意に、三週間前の喧嘩の場面が真琴の脳裏を過った。 「やっぱりこないだのことまだ怒ってるよね? ごめんね。言い過ぎちゃったことは本当に反省してる」 「いや、それはもういいんだ。本当のことだし」 「それに私、我儘も言いすぎたよね。これからは気を付けるから」  武尊が優しいのをいいことに、今まで我儘を言い過ぎていた。仏の顔も三度ということだろう。 「いや……もう決めたことだから」 「え?」 「俺の家に置いてある真琴の荷物は宅配便で送るよ」  真琴は言葉に詰まった。 「真琴の家にある俺の荷物は、全部処分してくれていいから」 「何それ……」  武尊は一方的に話すと車に乗り込み走り去った。  納得できるはずがない。  今日の温泉デートを思い返してみても、武尊が終始笑顔で楽しんでいる姿しか思い浮かばなかった。  やはり、少しずつ蓄積された不満がとうとう限界に達し、怒りが爆発したということだろうか。
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