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エレベーターを降りて自宅にたどり着いた途端、ぐらりと視界が揺れ、真琴はリビングの床にへたり込んだ。時々起こすパニック発作だ。
呼吸が乱れ、激しい動悸に襲われる。“大丈夫”と自分に言い聞かせながら、焦らずにゆっくりと深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる。
数分で指先の痺れも治まったが、動く気力はなく、そのままリビングの床に横たわっていた。
他に好きな人が出来たというならば仕方がないが、その可能性はゼロに近いと言い切れる自信が真琴にはあった。自惚れではなく、武尊のその眼差しから、言葉や口調や態度からも、自分への思いが溢れていたことがわかる。これだという決定的な理由を口にしなかった武尊が、何かを隠しているのではないかと思えてならなかった。
しばらくすると、ふとある人物が頭に浮かんだ。彼女なら何か理由を知っているかもしれない。
体を起こして時計を確認した真琴は、バッグからスマホを取り出し電話帳を開いた。コールすると、すぐに繋がった。相手は武尊の姉、朱里だ。
「朱里さん? 真琴です。夜分にすみません。お話があるんですけど、今から少しだけ会えませんか?」
『大丈夫よ。でも時間も遅いから、今からタクシーでおいで』
そう言われた真琴はすぐにタクシーで朱里の自宅に向かった。
突然の深夜の電話にもかかわらず落ち着いた口調で答える朱里は、まるで真琴からの連絡を予期していたようだった。
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