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56.
「ですが、ある日不意に冷静になった時、一番頼りにしていた人が愛想を尽かしていることに気づいた時、子どもを望むことを止めました」
同時に一緒にいても仕方ないと離婚を切り出したが、夫は「そこまで急ぐ必要はない」と言って、そのまま共に過ごしているのだという。
「ずっとそれだけのために頑張っていたものを終わらせてしまって、代わりにまぎらわしてくれるものはないのかと模索してました。何かないかと探している時、あるドラマを観て、そういえば誰かのために尽くしたい性格だったなと思い出し、その気持ちを思い出した途端、それが収まらなくて、その勢いのままこの仕事に就いた次第です」
「そうだったのですね」
「ええ、そうなんです。そうだったんです!その性格のおかげで何がなんでも尽くしたい姫宮様に出会えて大変嬉しくて仕方ないのです! この命を代えてでも尽くしますね!」
「ええ、はい⋯⋯ありがとうございます⋯⋯」
手を握られ、いつもの調子で熱弁する安野に押され気味であったが、内心安堵した。
きっと自分の人生をかけてまで叶えたかった愛の結晶が叶わず、途方に暮れ、次に何を生きがいにしたらいいのか考える余裕すらなかったのかもしれない。そんな彼女でもほんのちょっとしたきっかけで、こうしてやりがいがあると思える仕事に出会えたという彼女の誇りを感じている姿が眩しい。
第二の性だから、当たり前に与えられるもの、できるできないと勝手に決めつけるのは良くない。
たとえ大きな欠点があっても、どうにか乗り越えられる。
自分もそんな風に考えることができたら、そうやって考えられるきっかけがあったら良かった。
そういえば、代理出産をしようと思ったきっかけはなんだったっけ。
安野と似たようなきっかけだったような、一生会えないと思っていた大河の代わりのような、疑似体験のようなものをしたかったからだったか⋯⋯。
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