流れ星

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 こども園の行事として開かれた『星を見る会』。暗くなってから保護者同伴で園に集まり、夜空を眺めるという催しなのだが、その途中、受け持ちの園児の一人が、『お母さんの星が流れ星になって消えてしまった』と泣き出した。  その子の母親は二年前に他界していて、まだ死というものを理解できない年齢だったので、父親が『お母さんは夜空のお星さまになった』と教えていたのだ。  その際、星の一つを『あれがお母さんだよ』と信じさせていたらしいが、偶然にも今夜はその星が見えず、そのタイミングで流れ星が輝いたため、その子は母親の星がなくなってしまったと思い込んだようだ。  泣きじゃくるので説明もできず、結局、すぐに父親がその子を連れ帰った。  それからしばらく経ったある日、しばらく休んでいたその子が、今日は父親ではなく、見知らぬ女性と登園してきた。  親戚? まさか、新しいお母さん候補の女性?  見たこともない女性の存在に戸惑っていたら、園児は嬉しそうに私に言った。 「先生! この前の流れ星、あれ、お母さんが消えたんじゃなかった! お母さんが帰ってくるってことだった!」  お母さん? この女性が? でも、この子の母親が亡くなっているのは周知の事実だ。だけどこの子の反応は…。  気になり、周りにそれとなく聞いてみたけれど、そもそも件の子の母親を知っている人がおらず、誰に確認も取れないままお迎えの時間がやって来た。  夕方現れたのは朝の女性ではなく、いつも通り、仕事を切り上げてやって来た父親だった。 「あの、今朝、○○ちゃんを送ってこられた女性は…」  さすがに気になり、問いかけたら、父親の顔色が変わった。 「あの、○○、女の人と登園してきたんですか?」 「はい」 「あの、その女性はどんな感じの…」  問いに、覚えている限りの女性の特徴を話すと、今度は父親の顔が真っ青になった。 「あの、どうかされたんですか?」 「いや、その、今朝あいつ…○○が、『今日はお母さんとこども園に行く』って言い張って、一人で家を飛び出したんです。すぐに追いかけたけど見失って、園に連絡をしたら、他の先生が『もう来てる』って言ってくれたので、私も仕事がありますから、無事ならまあいいかと、朝はそれで済ませてしまったんですが…本当に○○、その容貌の女の人と登園してきたんですか?」  どうやら父親は何も知らないらしく、今朝の女性のことを必死に聞いてくる。そして、帰り支度を整えて現れた我が子にも、朝、一緒に来たという相手のことを問うた。 「〇〇、朝、お前をここに連れて来たっていう人は…」 「パパ! ママだよ! 今朝、今日はママと一緒に行くって言ったじゃない!」 「だけどママはもう…」 「だから、昨日の流れ星。あれが空から帰って来たママなんだってば」  思い込みが幻を見せている? でも今朝、私も確かに、この子が『ママ』だという女性と会った。  結局真相は判らぬまま、とりあえず、家でゆっくり話すということになり、二人は園から引き上げていった。  何が何だか訳が判らず、とりあえがくだったりとした気持ちで二人を見送り、他の子達も全員見送った後、残った業務を終えて本日の仕事は終了した。  その帰り道。ふと見上げた空に見えたのは、あちこちで瞬く流れ星。  そういえば、この数日で流星群が見頃だとニュースで言っていた気がする。  流れ星は、お星さまになった死人がこの世に帰って来る合図…。  ふと、あの子が言っていた言葉が脳裏をよぎった。  もしそれが本当なら、流星群が夜空を埋め尽くした翌日、現世は帰ってきた死者で溢れるのだろうか。  実際、あの子を送ってきた見知らぬ女性と対面してしまった以上、ないと言い切れないこの考え。  綺麗な流星群の夜空の下、私の心には明日の不安しか存在していない。 流れ星…完
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