私に結婚話が来ました

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私に結婚話が来ました

 一生城の奥に住まうだけと思っていた私に、なんと結婚が急に決まりました。  七歳の時の馬車の事故によって、私は国一番の美貌の姫から国一番の醜女という評判に転落している。そんな私には男性からの求婚など一生無いだろうと考えていたから、これはまさに驚きだ。  しかし、王である父が結婚相手の名前まで言ったのだから、これは間違いではないはず。  結婚相手は、陸兵団長のバルドゥク・ローウェンという男だった。  なんと、あら、まあ!!  私の顔は自然とにやけていた。 「知っているのか?」  私に結婚を伝えに来た父は、物凄く訝しそうにして眉根を寄せた。  父は私が怪我をしたその日から少々疎遠の人であったが、最近私が思う所があって彼と接触したことで歩み寄りを始めたばかりなのだ。だからなのか、私に対して罪悪感からか少々過保護になっている。  それは実に好ましく、娘として嬉しいことだ。 「まさか。戦場では神出鬼没の鬼人とまで言われているらしいあの男。もしや、王宮に忍んで!!ああ、お前を手籠めにしていたとか!!」  お父様は賢王と名高い祖父から悪い意味でかけ離れていると有名なだけあって、全くお門違いな想像をしたようだ。 「不敬だ! あ、あの男を処刑してやる!!」  これはいけない。  私は慌てて言い繕う。 「わ、私は治癒神のみ使いのお名前と一緒だわって、それでおかしいわと笑ってしまっただけですわ」 「そうだな。笑えるな。み使いが狼であろうが、あの平民出の野犬が治癒神のみ使いの名を騙っているとはと、笑いが出るな」 「お父様。酷いですわ」 「仕方が無いであろう。平民に娘を嫁がせるなど私には辛く情けない選択だ。だがまあ、お前がこの結婚が嫌ならば」 「この度の戦勝はお父様のご判断があってこそよ。そんなお父様が約束を違えたら、せっかくの御名が落ちてしまいます。私はこの王家の為、いえ、王国の為に喜んで嫁ぎますわ」 「そうか」  父は私が考えていたよりも私に愛情を抱いていたようだ。  私のサロンを出て行った後ろ姿は、見るからに哀愁が漂っているものだった。 「姫様。姫様の母上様の持参金を国庫から出さねばなりませんから、」  私の耳に侍女の一人が囁く。  私は侍女の見立ての方が正しいと認めるしかない。  母は美しいから父の側室に召し上げられたのではなく、母の実家が裕福だったから、母の実家の金蔵の金を吸い上げる目的での召し上げだったのだ。  私の母が私の外見が台無しになったと嘆き悲しんだのは、私が誰かに嫁ぐ時には己も大嫌いな王宮から出られると望んでいたからだ。自分の持参金を国庫から取り戻し、その金でもって新たな人生を送りたいと彼女は望んでいたのだ。  だからか、五年前に亡くなった母の最期の言葉は、何も思い通りにならない人生だった、だった。悲しい。 「姫様? お辛いならお断りなさっても」 「そうですわ。姫様の相手が野犬だなんて」 「でもお。バルドゥク様は素敵だって、私の姉さまが言ってましたわ」 「お黙りなさい、アーリア」 「そうよ、新入りはお黙りなさい!大事な姫様のお相手が、家名も持たない男ですのよ!!」  私は私の為に喧嘩を始めた侍女達によって、自分のくだらないもの思いから覚めた。一番年若い侍女であり、私の親友の妹であるアーリアが、私思いの侍女達の八つ当たりの的になってしまうのは避けねばならない。  それに、私の親が私には良い親でなかった現実など、今の私にはどうでも良いこと。  出会った人々が私に好意どころか親心を抱いてくれるならば、それこそとても幸せな事なのだから。 「私は落ち込んでいなければ、バルドゥク様との結婚について忌まわしいとも思っていないの。ようやく外に出られると嬉しいばかりなのよ」 「ひめさま」 「さあ、輿入れの準備だわ!!素晴らしいものにしますわよ!!」  私は拳を振るって声を上げたが、なんと侍女達が準備にと勢い立つと思ったのに、全員が泣き崩れるとはどういうことだ?  バルドゥクが素敵と言っていたアーリアまで? 「あなたがたは一体どうなさったの?」  さめざめ泣いている侍女の一人が顔を上げ、淑女にはあるまじき声をあげた。 「婚礼は明日です!!」 「あら、まあ」  父は報連相も段取りもまともに出来ない愚鈍な人だったらしい。  んもう!!
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