三章 未灰家

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三章 未灰家

 この未灰(みはい)家は、他の家とは違う特徴があった。それは血の繋がった者同士が一カ所で暮らしていることだった。護のいる西洋の城のような屋敷には何百人もの人間が住んでおり、少なからず父親と血縁関係にあった。  子どもが生まれれば皆で育て、屋敷内で様々な仕事をし、親戚の誰かと結婚する。それが未灰家の日常であり、一つの国が形成されているようだった。そして、その中で養子である護は異様な存在だった。  刺さる視線に護は口を閉じる。その様子に父親も親戚たちも玄関ホールを離れていった。  自分の立場、つぼみのことを考えると真っ向から反抗することは難しい。  護の頭の中でそんなことがよぎる。なら、せめてできることをしなければ、と護はつぼみが走っていった廊下を進み始めた。  廊下から部屋、階段まで彼は誰かしらとすれ違ったり、見かけたりした。窓を拭き掃除するメイドから走り回る子どもまで皆、父親の親戚にあたるのだ。護は誰からも声をかけられることなく、屋敷内を歩き続ける。  ふと、見渡せば豪奢な額縁に飾られた絵画やシャンデリアが目についた。この屋敷で生活が成り立っている未灰家。その金はどこから湧いているのだろう。護の頭で何度かよぎった考えだったが、それを消すように駆け足になった。  廊下と階段の行き来をしているうちに着いたのは、テンキーボタンのある扉だった。護はカードを通し、暗証番号を入力する。まもなく扉は開かれ、彼は塔になっている場所へと入っていった。階段を上がり、目の前に見えたのは、つぼみの寝室だった。ドアの前まで来ると、微かに声が聞こえる。 「本当にゴメンね。説得はしてみたんだけど、やっぱりお父さんがダメだって」  つぼみは電話越しに弱々しく謝罪した。友人の方は大丈夫だよ、と答えるが、その声はどこか諦めているようにも聞こえた。その焦りからかつぼみの息が荒くなる。何度も謝る彼女に護は胸を痛めた。
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