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一章 昔話
「むかしむかし、あるところに一つの小さな国がありました。その国は悪い魔女に支配されていて、言うことを聞かないと酷いことをされていました。
困り果ててしまった人々は神様に国を救って下さい、とお願いをしました。すると、神様はその国で一番美しい娘に『あかいばら』を授けました。
娘はその『あかいばら』で魔女を倒すことができました。そして、その国は平和になりましたとさ、おしまい」
「えー。これでおしまいなの? つづきは? 『あかいばら』ってなんなの?」
ランプに照らされるベッドの上、黒髪の幼い子どもが隣に座る女に問いかける。
「そうねぇ、護(まもる)が大きくなったら分かるんじゃないかしら?」
そう答える彼女の髪は焦げ茶色であり、細くなった目からは青い瞳が覗いた。この二人には血のつながりはない。それでも、彼女は聖母のように子どもに微笑みかけ、抱きしめる。
「大きくなってからじゃなくて、今知りたいんだって」
「もう寝る時間よ。それなのに、起きてようとする子には……」
悪戯っぽく笑うと、女は子どもをくすぐり始めた。子どもはくすぐったさで笑ってしまい、質問どころではない。
灯りが照らし続けていたのは、温かく幸せな日常だった。
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