第一章

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   優しい人はいっぱいいる——そう思いたいが、反射的に俺の本能がそれを否定する。  一方で、疲れてしまう、という指摘は確かにその通りだと思った。  俺の幻聴(ノイズ)が発症したのだって、もともとは人間不信によるストレスが原因だったと言われている。  人を疑って、誰のことも信用できなくなって、精神が疲弊した末に、あの声が聞こえるようになったのだ。  メンタルクリニックには何度も通ったが、俺が幻覚症状を自覚できるようになったこと以外、特に改善の兆しは見られなかった。  処方された薬でいくらか気分を落ち着かせられることもあったが、それはあくまでも一時的なもの。  根本的に治すには、何よりもまず、俺のこの疑り深い性格をなんとかしなければならないのだ。 「世の中の人間が、乃々みたいに無邪気な奴ばっかりだったら良かったのにな」 「むぅ。それ、わたしのこと馬鹿にしてるでしょ?」  俺にとってはこの上にないくらいの褒め言葉のつもりだったが、純粋すぎる彼女には残念ながら伝わっていないようだった。  
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