18人が本棚に入れています
本棚に追加
その日は朝から一段と、幻聴がひどかった。
『おっ。あいつも新入生かな?』
『なーんか雰囲気からしてダサいなぁ』
『表情も暗いし陰キャっぽーい』
誰かが俺のウワサをしている——ような気がした。
実際にはそんな声は聞こえていないし、そもそも誰も何も言っていないのだけれど。
高校の正門へと続く坂道の途中。
桜並木に挟まれた通学路を、ブレザーの制服に身を包んだ生徒たちがぞろぞろと行く。
時折ふわりと風が吹くと、薄桃色の花びらが視界を横切り、ほのかに甘い香りが鼻をかすめる。
高校入学というおめでたい日にふさわしい爽やかな晴天の下、俺の脳内では複数の冷ややかな笑い声が響いていた。
『顔も平凡、体つきも平凡。ド平凡すぎて印象にも残らないな』
『なんかモブっぽい』
『影薄ーい』
うるさいな、と耳を塞いだところで、これらの声が止むことはない。
それもそのはず、あちこちから聞こえてくるこの声は、実際に誰かが口にしているわけではない。
周りで坂を上っていく生徒たちは皆、それぞれ黙って足だけを動かしている。
嘲笑めいたこの声を傍受しているのは、この場でたった一人、俺だけのはずだ。
なぜならこれは、俺の脳内だけで勝手に作り出されている、ただの幻覚なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!