第一章

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   その日は朝から一段と、幻聴(ノイズ)がひどかった。 『おっ。あいつも新入生かな?』 『なーんか雰囲気からしてダサいなぁ』 『表情も暗いし陰キャっぽーい』  誰かが俺のウワサをしている——ような気がした。  実際にはそんな声は聞こえていないし、そもそも誰も何も言っていないのだけれど。  高校の正門へと続く坂道の途中。  桜並木に挟まれた通学路を、ブレザーの制服に身を包んだ生徒たちがぞろぞろと行く。  時折ふわりと風が吹くと、薄桃色の花びらが視界を横切り、ほのかに甘い香りが鼻をかすめる。  高校入学というおめでたい日にふさわしい爽やかな晴天の下、俺の脳内では複数の冷ややかな笑い声が響いていた。 『顔も平凡、体つきも平凡。ド平凡すぎて印象にも残らないな』 『なんかモブっぽい』 『影薄ーい』  うるさいな、と耳を塞いだところで、これらの声が止むことはない。  それもそのはず、あちこちから聞こえてくるこの声は、実際に誰かが口にしているわけではない。  周りで坂を上っていく生徒たちは皆、それぞれ黙って足だけを動かしている。  嘲笑めいたこの声を傍受しているのは、この場でたった一人、俺だけのはずだ。  なぜならこれは、俺の脳内だけで勝手に作り出されている、ただの幻覚なのだから。  
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