第一章

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  「あっ、田中君。おはよう!」  と、久方ぶりに本物の声が辺りに響いた。  見ると、俺の斜め前を歩いていた女子生徒が他の男子生徒に笑いかけているところだった。  おそらくは知り合い同士で、仲が良い……というよりは、これからお近づきになろうとしている間柄だろうか。 「クラス分けはどんな感じかなぁ。もしかしたら同じクラスだったりしてね。えへへ」  女子生徒は猫撫で声でぐいぐい話しかけているが、対する男子生徒はどこか引いているように見える。  猛烈なアプローチを仕掛けているものの、あまり上手くはいっていない、といったところか。  お互いの距離を少しでも縮めようとする肉食系女子の必死な姿に、俺は思わず困惑の視線を送ってしまった。  と、そんな俺の様子に気づいたのか、女子生徒は急にバツの悪そうな顔をしたかと思うと、今度は鬼のような形相でこちらをキッと睨みつけた。  
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