第一章

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  『なに見てんのよ。文句ある? 見世物じゃないんだから、軽率にこっち見ないでよね。ていうかあっち行け! 今すぐ失せろ!』  彼女の黒々とした心の声が、俺の脳内に流れ込んでくる。  いや。  実際にはこれは、俺の幻聴(げんちょう)でしかないのだ。  恨みがましい目つきでこちらを睨んでいる彼女の本音は、彼女本人にしか知り得ない。  だから俺がいま脳内で聞いているこの声は、俺がただ勝手に想像しただけの、いわば妄想でしかない。  俺は、『人の心の声が聞こえる』という幻覚症状に悩まされている。  現実には誰も何も言っていないし、人の心が読めるわけでもないのに、相手はこう思っているんじゃないか、と俺が強く思い込むことで、それが幻聴(げんちょう)となって実際に聞こえるように感じてしまうのだ。  聞こえる内容は、特に負の感情が込められていることが多い。  俺への誹謗中傷の声が混じることも多々あり、それらを全て鵜呑みにしてしまうと、いわゆる被害妄想と呼ばれるものになるのだ。  
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