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「ねー、田中君。早く行こっ。なんか変な奴がこっち見てるし」
変な奴、というのは間違いなく俺のことだろう。
こちらに敵意を剥き出しにした女子生徒と、そんな彼女に手を引かれた男子生徒は足を早めてその場を去っていった。
(変な奴、ね)
さすがに『失せろ!』とまでは実際に言われなかったものの、俺が妄想した心の声もあながち間違ってはいない気がした。
もちろん、現実と妄想の区別はしっかりつけなければならないと思っている。
この人はきっとこう考えているだろう、と俺がいくら思い込んだところで、その人の本音は本人にしかわからないのだ。
けれど、人が放つ負の感情というのは、そう簡単には隠せないものがある。
何気ない日常会話の中でも、ふとした時に肌で感じ取ったりするものだ。
だから、俺のように常に人を疑り深い目で見ているような人間は、そういうアンテナを人一倍張ってしまう。
その結果、こうして幻聴まで聞こえるくらいに、人の悪意に敏感になってしまうのだ。
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