魔法部隊への道

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*  援軍は魔法部隊一番隊だったと知ったのは僕が意識を失ってから三日後のことだった。魔法力を使い果たした僕は眠り続けていたらしい。  病室にいると、ドアがノックされた。どうぞと告げると入ってきたのは魔法部隊の制服を纏った長い黒髪の女性だった。 「サ、サキ隊長!」  僕は思わず跳ね起きた。  入ってきたのは一番隊の隊長・サキ隊長だった。 「ああ、そんなに畏まらず。ただのお見舞いですから。すぐ帰ります」  サキ隊長は優しく微笑んだ。  この優しげな微笑みとは裏腹に、隊長は「爆炎の魔術師」と呼ばれていて、国内最強とされる炎の魔法使いだった。 「魔法力を使い切るとしばらく身体が動かないですからね。どうぞ楽になさってください」 「いや……あの……今回はありがとうございました」  あの火柱は隊長の魔法だった。 「礼には及びません。御礼ならあの後すぐに消火に当たった氷部隊に言ってあげてください」  隊長は笑った。  炎の威力は凄まじく周囲の木に燃え移った火を一番隊の氷魔法部隊が消火したらしい。 「いや……咄嗟の英断だと思います」 「あわや山火事ですよ?」  違う。  状況を見た隊長は、怪我人多しと判断し、戦いを長引かせないため一発の大きな魔法で竜を追い払った。  結果、すぐに救護に入ることができた。  英断としか言えない。 「僕は……あと一回のミッションをクリアすれば王家直属部隊に入れると思ってました」 「聞いてますよ。ユーリさんはすごく優秀だと」  僕は首を横に振る。 「あと一回でクリア、じゃなかった」 「と言うと?」 「戦場はゲームじゃない。血も流れるし、人が死ぬことだってある。そんな当たり前のことに気づいていなかった。『あと一回でクリア』じゃなくて『あと一回で命の危険が普通に起きる日々が始まる』んだってこと、これから先も続く戦いの日々に対する覚悟が僕は足りなかった。やっと気づいて……、今回は初めて恐怖を感じました」  隊長は何も言わずに頷いた。 「あまりの竜の強さに、僕は逃げようとしました。仲間を見捨てて……。こんな臆病者は、魔法部隊に入る資格がない」 「そんなことはありません」 「え?」 「怖くて逃げたいのは私も同じですよ」  隊長は微笑みを浮かべたまま言った。
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