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 雨が上がったのはそれから三十分ほどしてからで、それから聡祐と食事をして軽く買い物をしてから自分たちが住むアパートへと戻ってきた。 「野島、よかったら少し寄ってかない? この間配信のサブスク入れたから、今映画見放題なんだ」  何か観ない? と聞かれ、湊は自分の部屋のドアを開けずに頷いた。節約中である湊がそんなサブスクリプションに入っているわけないので、好きな映画が観れるという言葉に惹かれたのももちろんあるが、家に着いても一緒に居てくれようとする、そのことがすごく嬉しかった。 「井波くんは時間いいの?」 「うん。今週は課題も終わらせたし、余裕あるんだ」  聡祐が自分の部屋のドアを開けながら笑う。湊を中へと導いてから、ベッドに座っていいよ、と声を掛ける。随分と慣れてきた聡祐の部屋だけれど、いつもは台所かテーブル前にしかいないので、ベッドに座るのは初めてだった。  いつも聡祐が寝ている場所だと思うと、なんだか少し緊張する。 「野島はコーヒーと紅茶どっち好き?」  台所で電気ケトルに水を入れながら聡祐がこちらを振り返る。そこでまだ座っていない湊に笑いかけた。 「遠慮しないで座れよ。そこからじゃないとテレビ観にくいから」  確かにいつも座っている位置からだと、テレビを見るには少し振り返る形になる。それでここを勧めたのだと合点して、湊はベッドに座り込んだ。ふわりと聡祐の香りがする。 「そこにリモコンあるから、観たいもの探していいよ」 「あ、うん。ありがと」  湊がテーブルの上にあるリモコンを手に取る。実家にも同じものがあったから使い方は分かるが、これは聡祐のものだと思うと指先が震えてしまう。聡祐の部屋で聡祐の物に触れているだけでこんなに胸がドキドキするのだから、もう恋っていう病気の末期だと思う。  湊が小さく息を吐くと、突然座っていたベッドが揺れる。驚いて隣を見上げると、すぐ傍に聡祐が座っていた。 「はい。なんとなく野島は紅茶の方が好きかと思って、紅茶淹れた」  聡祐が両手に持っていたカップの片方をこちらに手渡す。 「ありがと……よく分かったね」 「まあ、だてに数カ月一緒に飯食ってないからね」  聡祐が笑いながら湊の髪を乱すように頭を撫でる。その仕草に固まっている湊に気づかず、聡祐は言葉を繋いだ。 「あとはー、頑張り屋で意外と凝り性、真面目で息抜きの仕方が分からなくて、色々考えがち。しかも考えてること、大体顔に出る」  当たりだろ? と聡祐はこちらを見やる。その途端、慌てたように湊から手を引っ込めた。ごめん、と謝るその横顔は少し赤くなっている。 「そ、そんな数カ月くらいで、分かった気になるなってな」  ははは、と笑いながら聡祐がカップに口を近づける。少し動揺しているのだろう、あち、と言いながら小さく舌を出した。  この数カ月、聡祐はちゃんと自分のことを見てくれて、知ってくれていた。それだけで胸が震える。
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