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「そんなこと、ない。色々覚えててくれるのは嬉しいよ。……考えてること顔に出るってのは聞き捨てならないけど」
湊が怪訝な顔で聡祐を見上げると、聡祐は少し安心したように笑って、今だって、とこちらを見つめた。
「めちゃくちゃ不満に思ってるだろ? あと、俺の苦手なピーマンをこっそり料理に混ぜた時も分かる」
「え? そこまで?」
「うん。食べろーっていう念が飛んできてる」
「ホントに? 次から気を付ける」
「いや、その前にピーマン食わせよう作戦の中止を考えてよ」
「それはダメです」
湊がはっきりと答えると、聡祐は一瞬驚いた顔をしてからくすくすと笑い出した。それを見て湊も笑い出す。
「あ、映画観るんだった。野島、何系好き?」
「うーん、あんまり映画のこだわりなくて、いつも『全米ナンバーワンヒット』みたいなものばっかり観てるかも」
「だったら、この間去年公開してたやつがサブスク対象になってたな。これにする?」
聡祐がリモコンを手に取り、テレビにその映画のページを表示させる。
正直、聡祐と観られるならなんだって嬉しい湊は、その問いにすぐに頷いた。
ふわふわと、暖かい何かでくるまれているような、そんな安心感が湊を包み込んでいた。新しい布団に変えたんだっけ、そんなはずないよな、そもそも自分は聡祐の部屋で映画を観ていたはずだ――湊はそんなことをぼんやり思いながら、ゆっくりと目を開けた。
「……これ、どこ……」
薄暗い視界には、白いシャツが見える。聡祐が着ていたものと同じだ、と思い、ゆっくりと視線を上に向けると、とても近くに聡祐の顔があった。
「い、なみ、く……」
驚きで一気に意識がクリアになった湊は慌てて聡祐から距離を取ろうともがく。けれど、背中側はすぐに壁で、湊はしたたかに頭をぶつけるだけで少しも距離を取ることはできなかった。
「ん……野島?」
「は、はい……あの、おれ、どうして……」
「……昨日、映画観てる途中で寝ちゃったからベッドで寝かせて……うち、布団これしかないから隣で寝た、けど……」
半分開かない目で聡祐は話しながらベッドの下へと腕を伸ばした。自身のスマホを拾い上げ、時間を見ると、まだ五時だ、と再びスマホを床に落とす。
「いいから、もう少し寝て行きなよ」
ほら、と聡祐が湊の肩を引き寄せる。再び聡祐の腕の中にすっぽりと収まった湊は、心臓が壊れるのではないと思うほど速く大きく鳴っている鼓動を感じながら聡祐の顔を見上げた。
「おれ、と寝る、とか……嫌じゃない、の……?」
「んー……嫌なら蹴り出してる……いいからもう少し寝かせて」
湊はそっと頷いてから、目の前の聡祐のシャツを少しだけ掴んだ。
それを何かの合図とでも思ったのだろうか。聡祐の腕が湊の肩を抱き寄せる。
数カ月前、付き合えないと言った人がこんなに傍に居る。もう抱いた気持ちを自分で捨てるなんてできない。
「もう……諦めるなんて、無理だよ……」
潤む視界に蓋をするように湊が目を閉じる。
この時が永遠に続いて、朝が来なければいいのにと思いながら、湊は聡祐の胸に顔を埋めた。
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