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 週が明けて月曜日の昼休み、湊は学校の食堂で、今日何度目かのため息を吐いた。 「今日のラーメン美味しくない? そりゃ、ラーメン屋よりはアレかしれないけど、俺は美味しいと思うよ」  テーブルを挟んで向かい側に座る水野が茶碗を持ったままこちらに心配そうな顔を向ける。 「あ、いや、美味しいよ」 「じゃあ考え事か? ため息ついてばっかで」 「え、おれ、ため息ついてた?」 「ん、割と頻繁に」  水野は食事を進めながら頷く。  きっと湊から漏れているのは夢から覚めたくない甘いため息だ。  週末のことを思い出すと今でもすぐに心臓が忙しなく音を立てる。ずっと見ているだけだった聡祐と一日出掛けて、しかも抱きしめられて眠るなんて、幸せ以外の言葉が見つからない。 「ごめん、悩みとか心配とかじゃないんだ。ただ、その……いいことがあって」 「ははーん、名探偵水野、ぴんと来たよ。彼女出来たんだろ?」 「か、彼女、とかじゃない、けど……その、好きな人とデート、したんだ」  湊が照れながら水野を見やると、少し泣きそうな顔をしていて、湊は首を傾げた。 「ずるい。それってもう彼女出来たみたいなものだろ。キスくらいした?」 「し、してないよ! 朝まで一緒にはいたけど……」  きっと聡祐にとっては、友達との距離感はあのくらいが普通なのかもしれない。思い起こせば高校の頃の友達は、一晩中ゲームをして雑魚寝になった、なんて話をよくしていた。狭いシングルのベッドで男二人が寝るには抱き寄せるのが一番楽だったのだろう。 「……何もしなかったのか?」 「……何もしなかったね」  水野が真剣な顔で問うので、湊は当たり前のように頷いた。一緒に居られる嬉しさと近距離の緊張で、何かしようなんて考えもできなかった。湊の場合、考える余裕があったとしても経験が全くないのでそんな状況で何をしたらいいのか分からないから、結局同じだっただろうとは思う。 「いやいやいや、野島は聖人君子か! 成人男子じゃないのか!」  いきなり大きな声を出す水野に、湊は慌てて、声大きいよ、と咎める。水野はちらりと周りを一瞥してから、少し声を落として、それさ、と言葉を繋ぐ。 「向こう、待ってたと思うよ? じゃなきゃ、一晩二人きりにはならないだろ」 「え、そんなこと……てか、おれ、映画観てる途中で寝落ちて、気づいたら一緒に寝てた、みたいな……」 「寝落ちとか小学生か、もう少し緊張感持てよ。それは、あれだ。可愛い弟にクラスチェンジされてる可能性はあるな」 「可愛い弟、か……」  一晩一緒にいても興奮しない相手だということは間違いないだろう。聡祐にとっての湊はきっと良くて親友、悪ければ同じ高校出身のお隣さん――どちらにせよ、恋愛には発展しない。 「あ、でも、それだけ心を許してるってことは少しはチャンスあると思うよ。近くにいても安心できる相手ってことだろうしな」  水野は湊を励ますように笑った。湊がそれに、ありがと、と笑顔を返した、その時だった。
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