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「安心な相手って、結局ドキドキしないってことなんじゃないかな?」  そんな言葉が後ろから聞こえ、湊は驚いて振り返った。そこには神崎が立っていて、こちらにいつもの優しい笑顔を向けている。 「神崎さん……」 「湊くんの好きな子って、いつも晩ご飯作ってるっていう子だよね」  神崎は空いていた湊の隣の椅子を引いてそのまま腰かけた。湊はそんな神崎を見上げ怪訝な表情を向けた。その通りではあるが、それをオープンにしているわけではないし、水野にも話していない。 「え、野島って料理出来るの?」  水野が驚いた顔でこちらを見やる。好きな人にご飯を作っているという神崎の発言はきっと水野にとって情報過多だったのだろう。一番気になったのは湊が料理をするというところだったらしい。  湊はそんな水野に頷いた。 「うん。夕飯は自炊するようにしたんだ」 「そういえば、前に呪文みたいにノートにメニュー書いてたな」 「ああ……うん、そうだった」  聡祐に夕飯を作り始めた頃、何を作れば喜んでもらえるか分からなくて、一日メニューに悩んでいたことがある。今は定番メニューをルーティンさせている感じだが、好きな人に食べてもらう喜びは今も変わらない。 「でさー、湊くんのご飯、僕も食べてみたくて。今度家に食べに行ってもいい?」 「え、家に、ですか……?」  この人を家に招くということは、この人を受け入れると同義だ。ただ食事をして帰っていくような人ではないだろう。 「えー、先輩ずるいです。俺も食べたい、野島」  湊が返事に困っていると、向かいの水野が少し不機嫌な顔でこちらを見た。きっと水野に他意はないとは思うのだが、この言葉は湊にとっては助け舟だ。 「じゃあ、水野と一緒なら……」 「あ、やったー。先輩よろしくお願いします」  野島の友達の水野です、とここで初めて自己紹介をした水野が神崎に笑顔を向ける。神崎は一瞬冷たい目をしたが、すぐに、三年の神崎だよ、と笑顔を返した。 「湊くん、いつならいいかな?」 「あ、おれはいつでも……二人で決めてくれたら、その日は空けますから」  水野が一緒であれば懸念していることはないだろうし、聡祐に対しても友達が来るからと言えば了承してくれるだろう。聡祐さえよければ、聡祐も一緒でも構わない。 「じゃあ、さっそく明日はどうかな? 二人とも」 「俺、明日はサークル休みだ」 「そっか。じゃあ、水野には買い出しから付き合ってもらうよ」  湊が言うと、いいよ、と水野が頷く。外にいる時点から水野と一緒に居れば、神崎と二人きりになる事もないだろう。  そう思うと湊は少し安心して息を吐いた。
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