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「ちょっとくらい落ちても平気。それより野島、お前先走りすぎ」  湊の手を離した聡祐が箱を再び持ち上げる。 「俺は別に野島のこと嫌とか思ってないから。そんなビクビクすんなよ」 「……井波くん……?」  首を傾げ聡祐を見ると優しい表情が返ってくる。 「そういうことだから、そんな緊張しなくていい」 「うん……ごめん」  湊が頷くと聡祐が、謝るな、と笑った。  それからすぐに口を開く。 「そっちの箱、運んでもらえるか?」  聡祐に言われ湊が慌てて箱を持ち上げる。聡祐は軽そうにに持っているが、湊には少し重い箱だった。それでも気取られないように湊がそれを抱え直す。 「これ、中身何?」 「資料。授業で使うんだ」  聡祐の後に続いて階段を上がる。部屋の前には二個同じような箱が置いてある。 「すごい量だな。井波くんってなんの学校だっけ?」 「デザインだけど」  聡祐は言いながら部屋の鍵を開け、箱を中へと詰め込んだ。 「デザイン?」 「そう、グラフィックデザイン。ところで野島、これから晩飯?」  箱を片付けた聡祐が湊を振り返る。湊はその言葉を不思議に思いながらも頷く。 「じゃあ、メシ行かないか?」 「メシ……? お、おれと、井波くんで?」  湊が驚いて聞き返すと、聡祐は可笑しそうに笑って、そうだよ、と頷いた。 「ええ? 二人、で?」 「そんな驚くことかよ。行こう、野島」  湊の肩をぽん、と軽く叩いてから聡祐が歩き出す。湊はそれを一歩遅れて追いかけた。  アパートから少し歩いた先には大きな通りがあって、その脇にはコンビニやドラッグストアなどが立ち並んでいる。その利便性から湊も今のアパートを選んだのだが、まだ利用したことのないところもいくつかある。その一つが、今聡祐と居るファミレスだ。ひとりで入るには、湊には少し敷居が高い。 「そっか、野島S大に行ってるんだ。頭いいんだな」 「おれなんて全然。たまたま受かったから来ただけ。それより井波くんの方が目的持ってる感じで……いい、よ」  カッコイイ、と言いそうになって、慌てて湊は言葉を切った。そんなことを言ったら、まだそういう目で見てるのかと思われてしまう。そうしたら、こんな風に接してもらえなくなるかもしれない。それは嫌だったので、ぐっと我慢した。 「簡単な道じゃないとはわかってるけどな。若いうちは足掻いて来いって、親父が言ってくれたから」 「いいお父さんだね」  湊が言うと聡祐は照れたように、まあな、と笑んだ。 「でも大変そうだね、あの箱とか」 「課題片付けるのに必要で。別に学校でできれば持ち帰る必要もないんだけどな」  聡祐は笑いながら手元のグラスを手に取った。長い指を、グラスについていた水滴が滑り落ちていく。そんな様子を見ているだけで湊はドキドキと胸が高鳴った。  今こうして向き合って食事をしているなんて一ヶ月前の自分には想像すら出来なかったことだ。
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