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「お、かえり……」 「おう、ただいま」  その翌日もアパートの前で会った二人は、聡祐の、腹減らねえ? の言葉をきっかけにファストフード店へと向かった。 「いつもこの時間なのか?」  トレーを手に、空いた席に腰掛けた聡祐が湊を見上げる。湊は頷きながらその向かい側に座った。 「今のところバイトもしてないし、大概は」 「俺も、まだ授業で手一杯で、帰ってからも課題あるし」  バイトどころじゃなくて、と聡祐が笑う。 「大変なんだね、専門学校って」 「まあ、確かにやることはたくさんかな」  でも楽しいよ、と聡祐がハンバーガーを齧る。その姿が男らしくて湊はついぼんやりと眺めてしまっていた。すると、ふいに聡祐が、ところでさ、と話題を変える。湊は見惚れているのに気付かれたか、と慌てて手元のハンバーガーを手にとってごまかそうとした。 「野島、相談があるんだけど」  けれど聡祐の話題は自分のことではなかったらしく、少し安心した湊は、何? と聞くように首を傾げた。 「夕飯なんだけど二人で自炊しないか? 正直毎日二食、外で食ってると金続かなくて。二人で交代でやれば負担も減るし」  確かに、昨日のファミレスでの食事は学生にとってはご馳走で、あんなのを毎日続けられるはずはない。現に今日は500円のセットで済ましているというか、済まさざるをえなくなっている。 「そうだね。たしかにその方が色々節約できそう」  湊が頷いて言うと聡祐が、やった、と小さく拳を作る。その姿に湊が笑う。 「じゃあ、一日交代でやってみよう。といっても、俺、料理なんてしたことないけどな」  野島もそうだろ、と聞かれ湊は、おれは、と口を開いた。 「小さい時から親共働きだったから、簡単なのなら作れるよ。あ、じゃあ、おれが作ろうか、毎日」  聡祐のために毎日料理が出来るなら本望というやつだ。自分が作ったものを聡祐が食べてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。けれど聡祐は、湊の提案に首を振った。 「そんなの公平じゃないだろ」 「でも……井波くんは課題とかあるんだろうし」  自分にもあるが、多分聡祐の比ではないだろう。テスト前は大変になるかもしれないが、今のところ毎日ゆったりと過ごしている。そのことを話すと、聡祐は渋々頷いた。 「じゃあ、俺が食材を買ってくるよ。それでどうだ? 公平になるか? ……てか、やっぱり飯は美味いに限るし」  にっと歯を見せて笑う聡祐に、湊は笑顔で頷いた。 「美味しいかは別として、やってみるよ」 「じゃあ、よろしくお願いします」  聡祐がぺこりと頭を下げる。湊も、こちらこそ、と笑った。 「なんか、いいね。こういうの……共同生活って感じで」 「共同生活?」  夢心地で呟いた湊の言葉を聡祐が聞き返す。湊は慌てて、違う、と口を開いた。 「全然違うよね。嫌だよね、おれと一緒みたいなこと言われたら」  可愛い女の子とならまだしも、何のとりえもない男の自分となんて嫌に決まっているはずだ。けれど聡祐は少し呆れた顔をして、なんだよそれ、と口を開いた。 「違わないだろ。俺は野島とならいいよ、共同生活」 「ホント?」 「じゃなきゃ、同じ釜の飯を食おうなんて提案しないだろ。偶然にせよ、地元の同級生が隣だったんだ。仲良くしたいって思うよ、俺は」  野島なら大歓迎、と聡祐が言う。その言葉と笑顔に湊はほっとして、ありがと、と答えた。 「こっちこそ、ありがと」  そんな言葉をさらりと言える聡祐に、心は湊の許可なくときめいてしまう。湊はそれを隠すように俯いて頷いた。
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