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「ホントは、あいつが部屋に来た時点で乗り込んでやろうと思った。でも、この先絶対に野島を困らせない様にするには、切り札が欲しいと思って……壁越しの音を録ったんだ。声大きかったしよく録れてると思う。何かあったら、警察に持ってくとでもいえば何もしてこないんじゃないかな」 「そんなこと、考えてくれて……ありがとう、井波くん」  本当に優しい人だと思った。それからいつでもちゃんと最善を考えられる人なのだと思うと、やっぱり好きになってよかったと思う。  さっき麻衣子は彼女じゃないと言っていたけれど、いつか聡祐を好きになる女の子が出てくるだろう。それまでにゆっくりと今の気持ちを手放していけばいい。 「いや、考えたのは麻衣子だ。俺は……全然冷静になれなかった」  聡祐がぐっと両手のひらを握りしめる。それから、こちらを真剣な目で見つめた。 「野島、俺のこと好きだって言ったよな?」 「え、あ……うん。でも、もう諦めるよ。これからは友達でいるつもりだから大丈夫」 「もう、俺に興味ないか?」 「興味って……えっと……」  まだものすごく、誰よりもあるけれど、そんなことを素直に言って聡祐に嫌われたくない。そう思うと素直には答えられなかった。 「ごめん、野島の気持ち確認してても仕方ないよな」  一度視線を外して大きく息を吐いた聡祐は、居ずまいを正すとまっすぐに湊を見つめた。湊もいつもと違う聡祐に緊張してその目を見る。 「好きなんだ」  その一言に、湊の心臓は高く波打った。鼓動を早める呪文のような言葉は、簡単に湊を混乱に引き込む。どういうことなんだ? と考えると、くらくら眩暈がして何も答えられなかった。すると、そんな気持ちが伝わったのか、聡祐は少しだけ笑って言葉を繋いだ。 「野島にとっては今更だと思う。でも、野島のことを知るたびに惹かれていって……」 「惹かれたって……井波くんはおれとは付き合えないって言ってたよね?」 「うん……あの時、野島の告白を断った理由覚えてるか?」 聡祐の言葉に、卒業式を思い出す。知らないやつとは付き合えないと言われ、そりゃそうだと納得したのだった。 湊は聡祐を見つめ頷いた。 「あの時は野島のこと、全然知らなくて関係が発展すると思ってなかったけど――今は、すごくよく知ってる」  聡祐が湊の頬に手を伸ばす。そのまま優しく撫でてから、微笑んだ。 「俺が居るのに気を許して寝ちゃった野島見た時、自覚したんだよ。キスしたいって思って……ごめん、勝手にしちゃいました」  ごめんなさいと頭を下げる聡祐を見て、湊はいつかのことを思い出した。自分の妄想かと思っていたあのキスは本物だった――そう思うと嬉しくて体の芯が熱くなる。 「今日も大学の友達呼ぶからって聞いて、部屋で聞き耳立てて……気持ち悪いよな」  ごめんなさい、と再び頭を下げる聡祐が可笑しくて、湊はくすくすと笑い出した。 「確かにびっくりしたけど嬉しかった。こっちこそ、怪我させてごめんね」 「俺にとっては、こんな手の怪我よりも、野島を取られる方がずっと痛い」 「でも右手だよ? 困るよ、色々と」 「野島が手伝ってくれればいいよ」  聡祐は言いながらそっと湊の手を取った。それを自分の肩に廻させる。湊は突然のことに驚いて首を傾げた。そんな湊に聡祐が微笑む。 「反対も同じようにしてくれれば、野島のこと抱きしめられる」 「……井波くん……」 「答え、聞かせて? 俺とお付き合いしてくれますか?」  湊はドキドキしながら頷いて、おずおずと聡祐の首に腕を廻した。緊張で強張る湊の顔に笑顔を向けてから、聡祐は湊の体を左腕で抱き寄せ、キスをした。そのまま舌先を絡め取られ、深く口腔内を舐め上げられる。背筋が悦に震えた。 「……湊って、呼んでいい?」  互いの目しか見られないほど近い距離で言われ、湊は頷いた。こつん、と額がぶつかる。その様子に聡祐が微笑み、湊、と囁いて再びキスをする。ドキドキするなんてものじゃない。ずっと憧れていた人に求められている今が本当に信じられなくて、心臓が飛び出そうなくらいだ。 「井波くん……好きだよ」  キスの隙間から湊か囁くと、聡祐は、聡祐って呼んでよ、と囁いた。その顔がひどく艶っぽくて男らしくて、湊は手を伸ばさずにはいられなかった。そっと両手で頬を包むと、聡祐が微笑んだ。 「湊、すごいエロい顔してる」 「う、嘘!」 「ホント。でも、すごく好きだよ、その顔――押し倒したくなる」  甘く艶めいた囁きに、湊の心は体より早く押し倒される。その誘いを振り払うなんてできない――多分、湊も待っていたから。 「――いいよ。井波くんなら、いい」 「手伝ってくれる?」  そう言って聡祐が右手を目の前まで軽く上げる。湊は赤くなりながら、それでも強く頷いた。

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