魔族とゴブリンは全く別の生き物

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 ジェヴィは黒のローブに身を包んで今日もギルドに向かう。深く被ったフードを少し持ち上げ、ギルドの掲示板を見てため息をついた。ギルドは一階の左右に酒場があり、真ん中に受付と掲示板がある。  掲示板に掲載された古く色褪せた一枚の依頼。月光茸(マラディア)の採取依頼だ。世間一般的には、幻とされているきのこだ。これまで誰一人として、依頼を受けた人はいない。  ダメ元で受付に向かう。受付の上に置かれた白いネームプレートには、アキュールと書かれている。今日の受付は当たりだ。 「こんにちは、ジェヴィさん」  鈴のような声に、おっとりとした目。茶色い髪を頭の上でお団子にしたアキュールさんは、他の受付の人とは違って僕にも優しく真摯に対応してくれる。 「あの、依頼を受けてくれる話とかって…………」 「うーん。来てないですねぇ」  頬に手を当てて申し訳なさそうに目を伏せるアキュールさん。「ですよねぇ」と、少し肩を落として受付を後にし、いつも通り階段で二階へ上がった。  二階は吹き抜けの資料室となっていて、本棚には手書きの資料が所狭しと置かれていた。  一階は屈強な戦士や、ローブを着た魔法使いなど、冒険者パーティが酒場のテーブルを囲んでいる反面、二階には殆ど人が居ない。 「ふむ、良い雰囲気じゃな」  植物図鑑を棚から取り出すと、ギルドの入口から少女の声が聞こえた。その声に一階の冒険者全員が一瞬で黙った。  場違いな幼い声に驚いた訳ではない。決して大きくはない声に含まれた強者の風格。隠す気のない圧倒的な威圧感に、全身が警報を鳴らしていた。 「こんにちは。今日は何のご用ですか?」  静かなギルドにアキュールの声が響いた。僕は慌てて二階から受付を見下ろした。受付の前に立つのは、真っ赤な髪に黒いドレスの少女と、殺気丸出しの黒い鎧を着た人。フルフェイスで、性別や年齢はここからじゃ一切分からない。アキュールはその威圧感に気付いてないらしく、普通の少女としてそれを扱っていた。 「冒険者になりたいのじゃが」 「えっと……あ、後ろの方の冒険者登録ですね!」  そっちの強さには何となく気付いたらしい、一人納得したアキュールに少女は少しムッと口を閉め、首を横に振った。 「違う。我の冒険者登録じゃ」 「えっ」 「なんじゃ、何か問題でも?」 「い、いえ。えっと……でしたら、ここに名前を書いて頂けますか?」 「無論じゃ」  少女は上半身を伸ばして、受付の上に置かれた紙に名前を書いた。 「はい、ルミエーラさんですね。依頼は横の掲示板から選んで下さい。最初は簡単な依頼からスタートしてくださいね」   「うむ、ではこれを貰うのじゃ」  一挙手一投足にハラハラドキドキしながら事の顛末を見据えたが、どうやら彼女を怒らせることは無かったようだ。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。彼女が掲示板に指差した依頼を見て、ジェヴィの鼓動はまた大きく動いた。
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