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「いらっしゃ〜い」
宿屋に入ると、うつ伏せになった二十代前半にみえる茶髪の女性が受付に座っていた。チラリとこちらを見ても、三人の容姿や、人を背負ってる事には何も言ってこない。
「四人分頼むのじゃ」
「はいよ〜銀貨四枚ね」
受付に銀貨が四枚置かれた。黒い鎧の人の手には気付いたら皮袋が握られていた。顔はフルフェイスで、見上げても表情は分からない。
「あ、えっと僕の分まで……?」
「その程度気にするでない。ここは年上に甘えとくのじゃ」
「年……上?」
一瞬ルミエーラを見たが、すぐに鎧の人を見て納得した。
「で、では……お言葉に甘えて」
「部屋はふたつで頼むのじゃ」
「は〜い」
「え、ふたつって」
「うむ。我とファントムで一部屋。お主ら人間で一部屋じゃ」
「えっ?! あっ! その」
「部屋は二階ね〜」
「うむ」
講義しようとするも、鍵を受け取るとすぐに手を掴まれて連れて行かれた。
「我らは隣の部屋におる。その少年が起きたら呼ぶのじゃ」
二つあるベッドの片方に少年を寝かせると、部屋にジェヴィを押し込んで、二人は行ってしまった。
「えっとぉ……どうしよぉ」
ベッドで寝息を立てている少年の隣に座り、一人唸りながら頭を抱えた。
「ん、……ここは?」
「あ、お、起きたぁ?」
フードを深く被ってぎこちなく笑うと、彼は怪訝な表情をして口を開いた。
「誰だ? お前……」
少年は立ちあがろうとしたが、顔を顰めて頭を触った。頭には包帯が巻かれていた。
「えっと、一応手当てはしたから、大丈夫だとは思うけど……」
そっとフードの中に入れていたポーションを渡した。
「これは」
瓶に入ったポーションを揺らす。中の緑色の液体がチャプチャプと音を鳴らした。
「えっと、ポーション。それ飲めば治ると、思うよ?」
久しぶりのまともな会話に、少し吃ってしまう。
怪しそうにこちらを見てくる目は変わらないが、覚悟を決めたのか、一度喉を鳴らすと、一気にポーションを飲み込んだ。
「んっ! ……思ったより美味いな」
「でしょ! それ、僕が頑張って味改良したんだよ!」
彼の反応にぎゅっと距離を詰めてしまった。フードが外れそうになって、慌てて深く被り直して離れた。
「あっ、ごめん。つい」
「いや、むしろありがとう。傷も痛まなくなった」
突然飛びついたことには驚いていたが、もう警戒した視線は無くなっていた。
「えっと、外すね?」
包帯を慣れた手つきでシュルッと外した。傷はもう完全に消えていた。
「そういや、俺を殴ったのって、もしかして……お前?」
「ち、違うよ! えっと、少し待ってて!」
包帯をローブに仕舞うと、慌てて部屋を飛び出した。
「彼、起きました!」
「すぐに行くのじゃ」
隣の扉を開けると、ベッドの上でくつろいでいた彼女はパッと起き上がって、部屋の隅に直立したファントムと共に部屋から出てきた。
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