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ジンは顔を背けて口をつぐんだ。
「別に答えんでも構わんが、黒断はお主が使うのは到底不可能な技じゃ。解呪ついでにロックを掛けた。今後は使えぬからの」
「女神から貰ったスキルを封印!?」
驚きのあまり口を滑らしたジンは慌てて口を塞ぐが、時すでに遅し。ルミエーラにはしっかりと聞こえていたらしい。口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。
「女神か……それは災難じゃったな。今日はもう良いじゃろ。我は隣で寝とるから、何か有ったら呼ぶんじゃな」
「おい!」
「なんじゃ?」
ルミエーラは入口で止まった。ジンにはもう興味なしと言わんばかりに、あくびをしている。
「お前が俺を倒したんだよな?」
「そうじゃが」
「お前強いんだよな?」
「うむ。そこらの冒険者や魔物程度に負けるような存在ではないのじゃ」
「なら、俺を強くしてくれ!」
ジンはベッドの上で正座をした。
「お主を? この我が?」
「なんでも良い。強くなれるなら、あいつを倒せるならなんだってする」
「あいつとな?」
「俺たちを襲った魔物だ、真っ黒でクソデカい狼だ」
「ほぅ、そうかそうか」
腕を組み、にこにこと笑みを浮かべ、頷きながらルミエーラはベッドで正座したジンに近付いた。
「なら、お主は今日から我の弟子じゃ。明日から早速鍛錬じゃ。今日は早よぅ寝るのじゃ」
「ってことは」
「うむ、お主を強くしてやるのじゃ」
「俺たちって?」
二人がいなくなって静かになった部屋にジェヴィの声がポツリと響いた。
「俺の……同郷の友人だ、黒くてデカい狼の魔物に殺されたんだ」
彼はそれだけいうと、布団を被って眠ってしまった。それ以上聞くこともできなく、ジェヴィは布団をかぶって眠りについた。
「よく眠れたかのう?」
翌朝、扉を勢いよく開けて、ルミエーラが部屋に入ってきた。ジンは床に座り机に肘を付いて大人しく座っていた。ジェヴィも昨夜とは違う青色のフードに着替えて隣に座っていた。
「一応な。で、俺はどうすりゃ良い」
一晩経って落ち着いたらしく、ルミエーラへ向ける視線の棘が幾許か減っていた。
「うむ、ついてくるのじゃ」
「あれ、鎧の、ファントムさんはいないんですね」
てっきり部屋の外で待っているのかと思ったが、廊下に人の気配はなかった。
「彼奴は別の頼みをしてての。それより月光茸じゃ」
宿を出ると路上に馬車が停まっていた。御者席には誰も座っていない。
「行くのじゃ」
御者はどうするのかと思っていると、さっそうと御者席にルミエーラが座った。
「え、ルミエーラさんが操縦するんですか!?」
「なんじゃ、不満か?」
「い、いえ、そういうわけでは......」
「ならさっさと乗るのじゃ」
「でも......」
ジェヴィがためらっていると、ジンが先に乗って、手を差し出した。
「ほれ、さっさと乗れよ。あいつが良いつってんだし、やらせとこうぜ」
しぶしぶその手を取り、馬車に乗った。ジンと向かい合わせに座る。
「それじゃ、行くぞ」
馬車がゴトンと動きだした。椅子はクッションが敷かれて柔らかく、石畳を走っていても気にならないくらい快適だ。
「数時間でつくからの、お主らはゆったりしてるのじゃ」
町を出たタイミングでそういわれたが、小さな個室に人と一緒。特に話すことも無く、手持ち無沙汰でフードに仕舞っていた魔道具の整理を始めた。
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