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「いい加減に止めなさい!」
小宮夏希は対面キッチンから居間に向かって叱った。コンロ前で夕ご飯のカレーをかき混ぜている。もう後は盛り付けるだけなのに、誰も手伝いにこない。
居間では小学生の二人の息子が、𠮟られてもネットゲームを続けていた。学校から帰ってきてから今までずっとしているのに、ご飯時になっても止めない。父親は今日も残業なのか、まだ帰宅していなかった。
「あと一回」
六年生の長男が画面を見たまま応えた。要するに、まだ止めないのだ。
怒りに任せて、夏希はコンロの火を止めた。
「本当に、あと一回で終わらせるんでしょうね?」
キッチンを出て、長男のしているゲームを覗く。長男は夏希の様子などお構いなしで頷き、ゲームを続けている。次男もあと一回を当然のようにし始めた。
あと一回って、その一回がもの凄く長い。
ため息まじりに、テーブルのいつも座る自分の椅子に腰掛けた夏希。置きっぱなしのPCを立ち上げた。
『子供 ゲーム』で検索すると、『ゲーム依存』などの記事が出てくる。夏希が以前から気にして読んでいた記事だ。
ゲーム依存している子供は平日で2時間以上、休日で3時間以上ゲームをしている、という記事の内容に自分の子供が当てはまっているのではと危惧していた。
ゲームを止めさせるのに、交換条件を出さないなどの注意事項を真剣に読んでいく。どうやったら子供たちからゲームを遠ざけることができるのか。いい方法を見つけたくて躍起になって読んでいた。やがて、
「ねぇ、お母さん。ご飯まだ?」
長男に問われるも、気になる記事はまだまだある。
「あと一つだけ」
夏希の応えにうんざりする長男。
「ただいま」
父親が帰ってきて居間に入る。長男と次男はパッと父親に近寄った。
「なんだ? まだご飯、食べてないのか? もう9時を過ぎてるのに」
父親はPCに向かっている夏希を横目に、息子の話を聞きながらキッチンに入った。
「やっぱりカレーか。玄関まで香りがしていたからまさかとは思ったんだ」
キッチンから居間に戻った父親はPCに向かっている夏希に、
「どうしたんだ、夏希。パートも無断欠勤していて結局辞めて、ずっと家にいるんだろう? なのに今日もカレーって。五日も続くの、流石に勘弁してくれ」
文句を告げたのだった。
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