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王子さまの贅沢クリームパン
ブール王国
そこは恵みの太陽と雨がたっぷりと降り注ぐ豊かで小さな国。
名産品は小麦粉、乳製品、卵。
そんな国の13歳になる第二王子クスクスは、あまりに平和でほのぼのとした毎日に飽き飽きしていた。
「つまらない!つまらない!
怪物でも襲ってこないものか、そしたら僕が伝説の剣を抜いて倒してやるものを!」
そう言うと編み物をしていたセモリナ王妃は顔を上げ、厳しい声を上げる。
「縁起でもないこと言うんじゃありません!怪物なんて300年この国では誰も見ていないんですよ。
そんなに退屈なら視察にでも行って国民と交流しておいで」
「こんな国、見に行ったってどこもかしこもあるのは畑や牛ばかりじゃないか。みんなみんな平和ぼけのトンチキチーだ」
「クスクス!」
王妃がヒステリックに声をあげると、クスクスは一瞬怯むもすぐに建て直していじけたように肘をつく。
「…そう言えば、最近異国の方がやってきてお店を開こうとしてるみたいですよ。国王しかまだお会いになってないけど…どんな方か見てきたらいかが?」
「ふうん、
城にこもっているよりマシか」
王妃に優しくそう諭され、クスクスは仕方なくといった風に立ち上がったが、内心はわくわくしていた。
王家の者は16歳までこの国のことをよく勉強し、それから外交に行くのが伝統だ。だからクスクスはこの国から出たことがない。
クスクスにとって、異国の人というのはそれだけで魅力的なのだ。
金色に輝く小麦やライ麦、サトウキビ畑、牛や鶏たちを越えて街を目指す。
しかし越えたところで、街についてもそこにあるのはいつもの市場だ。肉と小麦と野菜、乳、それから主食の麺類たち。
「ごきげんよう殿下!朝早くからどうしたんです?」
一番最初に出会った農夫がクスクスに声をかけた。
「む、おはよう。
新入りが来たって聞いたから見に来てやったんだ」
「ああ、それなら街の南側の一番隅にいますよ。明るくて、感じの良い娘ですよ」
「そんな隅っこにお店をたてるなんて!」
クスクスは(異国人はあまり頭の良いやつじゃないらしい)と思った。
小さな国なので街の隅までは城から30分とかからない。さらに彼は度々元気に走るので15分ほどで目的の場所に着いた。
南の外れに確かに古い小屋が立っていた。ずっと空き家だったそのボロ家は綺麗に掃除され、修理されていた。
外壁は薄い緑色で、花が手描きされた可愛らしい建物だ。
中を覗き込もうとしたタイミングで、小屋の窓が開かれた。
顔を出したのはまだ若そうな女性だ。
黒い髪に茶色い目、肌は白いが蜂蜜を混ぜたみたいだ。なんとなく自分達とは違うスッキリした顔つきである。
「うむ、確かに異国人」
クスクスは頷いてそう言った。
「あら、ボクどうしたの?」
異国人の女性はこちらを見て首をかしげているので、クスクスは胸を張って名乗る。
「無礼者、僕こそはブール王国第二王子のクスクスだ!」
「まあ殿下!お目にかかれて光栄です。
初めまして、私はアンナ」
アンナは玄関から回って外に出てくると笑顔で手を差し出した。
王子と聞いてもっとひれ伏すかと思っていたクスクスは肩透かしをくらったが、寛大なのでその握手に応えた。
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