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ベイク湖に到着すると、気持ちの良い爽やかな風が吹き抜ける。
太陽は優しい光を降り注ぎ、今日は気持ちの良いピクニック日和だ。
みんなで木陰に座りベーグルサンドを出す。
まずキルシュ、その次にファルとファッレが飛び付いた。
アンナとクスクスは目を合わせて笑う。
全員にベーグルが行き渡ったところで、
「「いただきます」」
まずスモークサーモンとクリームチーズサンドにかぶりつく。
弾力のあるもちもちのベーグルに、サーモンの塩気と薫り、ピクルスの酸味、それを中和するクリーミーなチーズの相性は抜群だ。ハーブは魚の臭みを消すだけでなく爽やかな風味を付け加える。
「…ハーブの香りが素敵ねえ」
キルシュが目を閉じて味わいながら言った。
「サーモンもさることながら、弾力のあるシンプルなパンと、なめらかで優しい酸味のクリームチーズが合うな」
ノッカは冷静に分析する。
「ほんと!パンもちもち!」
「クスクスやるじゃん」
双子はぴょこぴょこと喜んだ。
「へへん
甘いのもあるよ」
クスクスが鼻を越すってジャムのベーグルも差し出す。
「これも凄く美味しい!!」
甘く煮詰めたジャムとクリームチーズの組み合わせは濃厚なスイーツを思わせる。シンプルな味のベーグルは何にでも合うのだ。
「ふー、お腹いっぱいになっちゃった」
ファッレが伸びをしながらその場にごろんと寝転んだ。
「ほんとねー」
ファッレにそう返しながら、キルシュは立ち上がって伸びをした。
「私は腹ごなしにちょっと湖の側まで行ってみようかな」
「僕も行く!2人も行こうよ」
「おう!ファッレ行こうぜ」
「えぇ、今は眠りたいなあ」
3人が乗り気な中、ファッレだけは眠たそうにぐずる。
「今の時期ならカニがいるかもしれないよ」
クスクスがそう声をかけると、やや渋々ながらもファッレは立ち上がってみんなと一緒に行った。
アンナはファッレと同じように眠くなったので、木の幹に寄りかかって遠くで遊ぶ子どもたちを眺める。
ノッカが少し詰めて隣に座った。
「君は凄いな。こんな美味しいものを次々と作って」
「ノッカだってとても美味しいチーズを作ってるじゃない。今日のクリームチーズも最高だったわ」
「失敗ばかりさ」
「…私はただ故郷のレシピを再現してるだけだもの」
「君は故郷に帰ったりはするのか?」
「それが出来ないのよ。…あっふ、私は死んだことになってるの」
アンナは大あくびをしながら言った。その回答にノッカは少し黙る。
「…そうか。
でも、君がずっとこの国にいるなら、もしよかったら、その、僕と…」
そう言いかけてアンナの顔をみると、すやすやと眠っていた。
ぽかぽか温かい日に涼しい木漏れ日の下、お腹いっぱいなのだから無理もない。
ノッカは頭の上で手を組んでその場に寝転んだ。
「水に入るのは困るわ、着替えがないの!」
「公爵家の姫様は大変だな!ファッレ見てみろこのカニでかいぞ!」
すっかりカニとりに夢中になって湖に入って遊ぶ双子を、キルシュは水辺から羨ましそうに見る。
クスクスは隣に並んだ。
「今度また来ようよ!次は水着を持って」
「んー、それは難しいかも」
「どうして?」
「私、結婚が決まったのよね」
「えっ?」
キルシュが小石を拾って湖に投げた。
「凄くかっこよくて優しい騎士様なのよ!でも、花嫁修行も始まるしブール王国から少し遠いから…もう昔みたいに遊べなくなっちゃうの…」
「キルシュー!
あの堅物チーズ男にカニ投げにいこう!」
そんな会話の聞こえていなかったファッレが巨大なカニを掲げてそう叫ぶ。
「いいわね!
…クスクス、子供のうちにたくさん遊ぶのよ」
「…うん」
とても楽しいピクニックの一日は、ひとつのカップルも生み出すことなく、ほろ苦く終わった。
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