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クスクスが小屋の中を覗き込むと、積み重なった小麦粉の袋、木で出来ためんだいに、奥には大きな釜が見えた。
「新参ものが食べもの屋さんを開くのか。みんな馴染みの店があるし、こんな街外れだとすぐに潰れちゃうぞ」
そうアドバイスをしたが、アンナはニコニコと答えた。
「私はパンを焼くんです。
それも、みんながわざわざここまで買いにきたくなっちゃうような特別なのをね」
「ぱん?」
異国の食べ物か、クスクスはそんな食べ物を聞いたことがなかった。
「それはなんだ?」
「小麦粉やライ麦粉で作る食べ物です。
とっても香ばしい良い香りがして、時にはカリカリ、時にはふわふわ、カリカリの中にふわふわがあることもあります。バターやチーズにも、スープにもお肉にも、何にでもあうんです」
「甘いものにも?」
甘いものが好きなクスクスは思わず聞いた。
「もちろん!甘いパンは数えきれないほどたくさんありますよ」
「例えばどんな?」
クスクスはどんどん興味が湧いてきて前のめりになる。
「例えば甘いふわふわの生地に、たっぷり甘いカスタードクリームを包んで焼くんです」
「お菓子みたいだ!」
ほんのり温かいふわふわした香ばしいパンという食べ物の中からトロッとクリームが出てくるところを想像して、思わずよだれが出そうになった。
「よし!今僕にそれを作ってくれ!味見してやろう!」
「それは光栄です
じゃあ王子様だから、とびきり贅沢なクリームパンを作りましょう。
その代わり…」
アンナは微笑んで改めてクスクスを見つめる。
「殿下にもお手伝いいただいてもいいですか?私まだこの国に来て浅いのでわからないことだらけなんです」
「わかった、この第二王子クスクス様に任せろ!何からする?」
「まずは材料調達からです。牛乳と卵をうんとたくさん使うわ」
「そこから?!」
クスクスは仰天したが、どうしてもクリームパンというものを食べてみたいので付き合うことにした。
バケツを担いで牛を探しに小屋を出る。
「牛乳を手に入れるにはまず牛と仲良くならなきゃいけない。今回は僕がいるから苦労ないだろう」
「初めてきたときびっくりしました。私の国の牛は話さないので」
「なんだって?!じゃあどうやって牛乳を手に入れてるんだ?」
「農家さんが大切に牛を育てて、それで乳を搾るんです」
牛がそんなに簡単に言うことを聞くことに驚いた。
彼らはのんびり屋でお喋りできまぐれなのだ。
「それに鶏も私の国ではもっと小さくて白や茶色をしています」
異国の話には驚かされるばかりで、聞いていて飽きない。
普通は退屈極まりない材料調達と言う作業だったが、とても楽しいものだった。
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